唐突ながら、セロリの葉をもっと有効利用できないものかと考えたレシピをご紹介。絵本の編集者が、かつて教えてくれたもの。私も彼女もまだ駆け出しの三十才前後の頃。我が家でセロリごはんを作ってくれることに。彼女は、お金をかけずに美味(おい)しいものを作り、その発想を楽しんでいた。
残念ながら、タイで休暇を過ごしていた彼女は二〇〇四年のスマトラ沖地震で、突然に逝ってしまった。たくさんの絵本を世に出し、美味しいものと出会った時の笑顔を残したまま。
さて、さっそくそのレシピのご紹介。豚ひき肉二〇〇グラムに対して、セロリは枝分かれしている先の葉まですべてを細かく刻む。肉のかさと同じくらいか、それ以上が好ましい。
次に、フライパンに油を引く。鷹(たか)の爪を一本入れて、ニンニク一片のみじん切りを炒める。鷹の爪は適当なところでお役ご免。そこにひき肉を入れ、おおよそ火が通るまで炒める。胡椒(こしょう)は適当に。そこにセロリをドサッと投入。サクサクと混ぜ合わせながら炒める。セロリの香りがはなはだしく立ち上がってくる。セロリがしんなりしてきたら、仕上げに醤油(しょうゆ)で味付け。入れ過ぎは注意。薄ければ、あとから足せる。はい、出来上がり。ビールがめちゃくちゃ飲みたくなる刺激的な香りが漂う。
そして、盛り付け。これは幸せの大事なレシピである。大きめの丸い皿に、ごはんを平らに敷き詰める。ごはんの量はお好みで、多めにしたければエアーズロックくらいの高さにするだけ。そこに熱々の具を広げていく。
そこに、バナナ。バナナが重要。一本分を薄く輪切りにして、そのケーキなる台地の周りにひまわりの花びらのように並べる。キャー、かわいいー、拍手パチパチとなる。今時のインスタ映え?
この程度の具材で、ちょっとしたパーティー気分になる。香りからして、非日常でいい。活躍するのはそのバナナ。セロリと醤油と鷹の爪の刺激に、程よくバナナの甘さが絶妙なのだ。
その後、何度か作るうちに、バナナの三分の一くらいを小さく切って一緒に炒めてみた。これが、ばっちりだった。バナナに熱を通すことで、バナナの生臭い部分は消え、甘味と酸味が見事に深みをくれた。もう絶妙と自画自賛した。彼女は向こうで、何やら笑っていそうだが。以来、我が家ではこれを父ちゃんスペシャル!といって、私をそそのかす。
デビュー作『ピンク、ぺっこん』から、セロリごはんまで、興味を一つ一つ一緒に作ってこられたことに、感謝してもしきれない。ワインなら赤でも白でもロゼでも、日本酒だっていける。ぜひ一度、お試しあれ=朝日新聞2019年10月26日掲載