何かを手間をかけて調べるということは、実に楽しい。『桃太郎は盗人(ぬすっと)なのか?』は、2007年生まれの倉持よつばさんが、小学5年の夏休みに取り組んだ調べ学習をもとにした本。知識が血肉になる過程が追体験出来る。
著者は、ある絵本の解説で、福沢諭吉が桃太郎は盗人ともいうべき悪者だと評したこと、同様のテーマで芥川龍之介が小説を書いたことなどを知り、ショックを受ける。「まちがっているか、ウソをついている」と調べ始めた。
福沢や芥川の論点をまとめ、千葉から岐阜の図書館まで行ってみて、様々な桃太郎74冊を読み比べた。うち70冊は「鬼が悪さをした」と書いてあった。すると今度は、なぜ福沢たちがそんな意見になったか考える。より古い桃太郎を探し、学芸員の力を借りて江戸中期のくずし字にも挑む。
問いから問いが生まれ、「鬼とは何か」という根源的な疑問に進む様はスリリングですらある。資料編も充実、文章にはユーモアがある。わかったつもりでいる大人の背筋が伸びる一冊。(滝沢文那)=朝日新聞2019年11月2日掲載