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「近現代日本の民間精神療法」 国境越えねつ造された起源を暴く 朝日新聞書評から

評者: 柄谷行人 / 朝⽇新聞掲載:2019年11月16日
近現代日本の民間精神療法 不可視なエネルギーの諸相 著者:栗田 英彦 出版社:国書刊行会 ジャンル:健康・家庭医学

ISBN: 9784336063809
発売⽇: 2019/09/13
サイズ: 22cm/399,15p

催眠術は明治に輸入されて大正期に霊術・精神療法へと発展。これは西洋の近代オカルティズムと並行する、グローバルなオカルティズム運動であった。近現代日本の民間精神療法の全体像…

近現代日本の民間精神療法 不可視(オカルト)なエネルギーの諸相 [編]栗田英彦、塚田穂高、吉永進一

 私は学生の頃から、催眠術、西式健康法、野口整体、手かざし、静坐法などをやってきた。医者に行ってもどうにもならない問題があったからだ。一定の効果が感じられる以上、それらの療法を斥ける理由はなかった。それらにどういう「科学的」根拠があるのかわからないが、そのうちわかるだろうと思っていた。まだ、そうなってはいない。ただ、「民間療法」と呼ばれる、これらの療法に関する研究は進んできている。私は以前に『癒しを生きた人々』(1999年)という本を読んだことがあるが、本書はそれを受け継ぐとともに、もっと本格的に考察を広げている。そのことは、巻末の「民間精神療法主要人物および著作ガイド」を見れば明白である。
 その中に、私にとってなじみのない療法が一つある。それはレイキである。私は聞いたこともなかった。臼井甕男(うすいみかお、1865~1926)が考案したとされる「霊気療法」が一九七〇年代にアメリカなどに伝わり、レイキヒーリングとして大流行したあと、日本に「レイキ」という名で逆輸入される形で戻ってきて以来、その起源がさまざまに論じられるようになったのである。禅の修行をした後で京都の鞍馬山で断食を行ったとされたり、チベットでも修行したとされたりする。また中国思想の「気」の概念で説明されることもある。
 しかし、臼井に先立って「霊気説」を唱えた玉利喜造(1856~1931)は、すでに西洋から来た催眠術(動物磁気の理論)に立脚していた。また臼井自身も、ヨーガのプラーナの概念や呼吸法を取り入れていた。さらに、彼が取りいれたヨーガの理論は、インドのラマチャラカが書いたと思われているが、実は、アトキンソンというアメリカ人が書いたものだ。こうなると、どこが起源ともいえない。本書には、海外から三人の著者が参加しており、それぞれねつ造された起源についても論じているのが面白い。
 それらが示すのは、起源がそう信じられているように、インド、中国、日本などにあるのではないということである。それはむしろ、一九世紀後半、アメリカに生まれたオカルティズム、あるいは、神智学などにある。鈴木大拙の禅がアメリカで流行したことも、それを示すものだ。実は大拙は、日本に一八世紀の神秘主義思想家スウェーデンボルグを翻訳紹介した人である。編者の吉永進一が示唆するように、このような傾向をグローバル・スピリチュアリズムと呼んでもよいだろう。私の考えでは、それはグローバル資本主義と切り離せない。しかし、それに対抗するためにも、本書のような研究が不可欠である。
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くりた・ひでひこ 1978年生まれ。愛知県立大非常勤講師(宗教学、思想史)▽つかだ・ほたか 1980年生まれ。上越教育大助教(宗教社会学)▽よしなが・しんいち 1957年生まれ。舞鶴工業高専教授(近代仏教史など)