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「大阪ミナミの子どもたち」書評 福祉行政の弱点 救う視点に力

評者: 寺尾紗穂 / 朝⽇新聞掲載:2019年11月16日
大阪ミナミの子どもたち 歓楽街で暮らす親と子を支える夜間教室の日々 著者:金 光敏 出版社:彩流社 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784779126123
発売⽇: 2019/09/09
サイズ: 19cm/173p

大阪ミナミの子どもたち 歓楽街で暮らす親と子を支える夜間教室の日々 [著]金光敏

 著者は大阪で外国ルーツの子ども向けの夜間学習教室を運営する金光敏。在日コリアン3世だ。教室は2012年のフィリピン人の母親による子殺しの事件がきっかけで翌年設立された。小学1年生の子どもの新学期の準備に追われた母親は、母子家庭で貧しかった。日本語の不自由さに追い詰められ、ノイローゼになっていたと言われる。このケースに限らず、日本での生活に困窮して役所の窓口にいくも日本語の説明も文書の内容も理解することもできず、もらえる手当をもらえていないケースが多いという。金は「教員や福祉従事者の養成課程で『外国人支援』の科目が確立されていない」ことを憂えているが、役所の窓口業務も、本来は同様の配慮が最も求められる現場だろう。
 貧困は進むほどに、子どもの可能性を狭める。そこに国籍や外見の違いによる疎外感が加われば、自らのアイデンティティーに否定的な感情を持ってしまう。日本ではまだ「在日外国人は同化すべきで、できないやつは帰るべき」という意見が散見されるが、外国ルーツの生徒が多い学校から多文化共生教育は始まっているという。本書で触れられるフィリピンルーツの「チヒロ」が、フィリピン語がわからない状態から、高校のフィリピン文化の学習会で学んで自信をつけた例は、希望を感じさせる。
 描かれる活動は家庭や事情にあわせて支援を考える「パーソナルサポート」である。外国人労働者を「彼らにも生活があり、夢や希望があるという隣人」として認識し、社会を変えていこうとする主張は、外国人問題を超えて普遍的な響きを持つ。日本の福祉行政の弱点は「パーソナルサポート」が行き届いておらず、制度の網の目から落ちて苦しむ人が多くいるためだ。何かと「ボランティア頼み」の国の歩みは遅い。「目の前の人間の幸福を考える」著者のような人びとの、各地での根気強い取り組みが息切れしないことを願う。
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 キム・クヮンミン 1971年生まれ。コリアNGOセンター事務局長、「Minamiこども教室」実行委員長。