これが「写真」なのだろうか。
波打ち際で竹馬に興じる子供たちにせよ、水辺に並ぶ土蔵群にせよ、ソフトフォーカスと呼ぶだけでは足りないほどぼんやりとし、ちょっとゆがんでいるようでもある。セピア色の画面は懐かしさにつながるが、これらは懐かしさを超え、詩的な構図と相まって、夢の中の風景や超現実主義の絵画のようだ。
鳥取県の港町・赤碕の回船問屋に生まれ、同地を拠点に、少年時代から撮り続けた写真家・塩谷定好(しおたにていこう)(1899~1988)の作品群だ。
1920年代を中心に広がる、絵画的な美を求める「芸術写真」の代表的な一人だ。ソフトフォーカスで撮るだけでなく、焼き付けの際に印画紙をゆがめたり、画材を加えたりしたようだ。「写真」という言葉を揺さぶる存在だが、一方で撮る光景や事物に潜む普遍性を抽出していると思える表現力だ。
隅々まで明るく美しいスマホやデジカメの写真があふれる今、その問いかけは大きい。=朝日新聞2019年11月16日掲載