この本を読むきっかけは、以前ブラインドサッカーの取材をして、目に興味がわいたからです。目の見えない人にコーチングするのが難しくて、目によって生物界はかなり変わったのではと考えるようになった。
今から5億4300万年前、地球上の動物が爆発的に進化したんですが、著者はこの原因が目の誕生にあるといいます。太陽の光を受容する器官が発達して目になって、捕食など生存競争に有利になったという。すごく腑(ふ)に落ちた。生物から見える世界もカラフルになり、体の色や形が変わったというのも興味深い。でも、この説には論理の飛躍もあるので、反論する本が出たらまた読んでさらに理解を深めるというのを繰り返すでしょう。
20代半ばごろ、欧州遠征で試合を待つ間、日本から何冊も本を持って行って読みました。今でも月に6、7冊は読みますかね。人間に興味があるので進化論や心理学の本が多いです。ダーウィンの『種の起源』も読みましたよ。進化論の世界は仮説だらけです。そこが陸上競技にすごく似ている。例えば新薬の開発だったら膨大な検体を集めて効果を検証できますが、100メートルで9秒台を出した日本人は3人しかいないから、9秒台を出す動きは検証できません。トップ選手の世界では、わずかな結果を頼りに、こうやったら速いんじゃないかと仮説を立てて試してみる。10年20年経ってようやく、迷信か根拠があったかがわかる。そういう世界です。
人間を理解するのが自分にとっての生きる喜び。そのために読書は必要なので、俺から読書の時間を奪うなと周りには言っています。(聞き手・久田貴志子 写真・伊ケ崎忍)=朝日新聞2019年11月20日掲載