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ホラン千秋さんが好きな本「神さまを待っている」 胸に刺さった同世代の心情

ホラン千秋さん

 主人公の26歳の女性が500円の鰺(あじ)フライランチにこだわる冒頭にひかれて読みました。ある日、派遣切りに遭い、漫画喫茶で寝泊まりして出会い喫茶で会う男性からもらうお金で生活するようになる。女性や若者の貧困をニュースで読むことはありますが、様々な理由からこういった生活をせざるをえない方はたくさんいる。同世代の女性の心情が胸に刺さり、好きというより心に引っかかっている作品です。

 家出した16歳のナギが、泊めてくれる男の人のことを「神さま」と呼ぶ理由も心に残った。神というと「神対応」とかポジティブに使われることが多いのに、彼女にとってはその日限りの神様で、代償を伴って降りてくる。その表現が残酷でもあり、皮肉でもあり、切ない。「貧困というのは、頼れる人がいないことだ」というせりふがあるんですが、貧困はお金の先にある人間関係や社会とのつながりなど、乏しさが波及していく現象だということにも、はっとさせられました。

 読書タイムは移動中や寝る前。ジャンルや作家にこだわりはないですが、同世代の若者はどう考えているのかなという本を手に取ることが多いです。最近では『82年生まれ、キム・ジヨン』も面白かった。韓国の女性が結婚、出産、育児をする中で、どう社会とのつながりを保っていくかという話です。

 仕事でもプライベートでも、様々な境遇や立場にいる人の思いや考えを自分なりに理解したうえで、接したり発言したりしたいと思います。本には、既存の制度や価値観、ジェンダーに縛られずに生きる人たちの深い心情がちりばめられていて、私の心の中の引き出しになってくれていると思います。(聞き手・久田貴志子)=朝日新聞2019年12月18日掲載