総選挙直前の英国で、チャンネル4が党首討論を放映した。議題は「気候危機」。保守党のジョンソン首相とブレグジット党のファラージ党首は出演しなかった。2人が立つべき演壇の上には、地球を模(かたど)った氷の塊が置かれた。政治家が不在の間にどんどん溶けて行く氷の塊。痛烈な皮肉だ。
そもそも、この議題で党首討論が行われたのも初めてだ。世界中で話題になった環境活動家のグレタ・トゥーンベリと、気候変動対策を求める若者たちの運動が背景にあるのは明らかである。
「私は何も新しいことは言っていません」と本人も言う通り、本書収録のスピーチ集を読めば、グレタの主張は、これまで気候変動や地球温暖化の問題を訴えてきた人々の意見の寄せ集めだ。が、それこそが重要なのだ。なぜなら、長い間、これらの訴えは聞かれて来なかったのだから。
グレタの前に、気候変動問題を訴えた著名人にはナオミ・クラインがいた。彼女とグレタの対談の動画を見たが、クラインは、気候変動問題に人々が真剣にならないのは、経済的に日々の生活に苦しんでいる人が増えているからだと言っていた。
クラインもグレタのように以前は「経済的目標は二の次」という立場だった。が、今は環境分野に財政投資を行い、雇用を創出し健全な成長を遂げながら環境問題に取り組む「グリーン・ニューディール」の支持者だ。やはりグレタと対談した米国のオカシオコルテス下院議員も唱えている政策だ。こうした人々の影響も受ければ、グレタは今後、活動家として成長していくに違いない。
本書はグレタの母親が中心になって書いた家族の記録が主であり、彼女が環境問題に関心を持った経緯、どのように活動してきたかがわかる。欧州のティーンたちに気候変動は「切実な問題」という意識を植え付けた点で、彼女の功績は過小評価されるべきではない。
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羽根由訳、海と月社・1760円=5刷2万2千部。10月刊行。グレタさんはスウェーデンの高校生。書店では若者が手に取っているという。中学や高校の図書館にも人気。