ナポレオンのエジプト遠征時に見つかり、今は大英博物館で展示されているロゼッタストーンや、ギリシャのパルテノン神殿から切り出され、やはり大英博で陳列中のエルギン・マーブル・コレクションなど、人類の遺産ともいえる様々な文化財はどこにあるのが一番いいかというのは、古くて新しい問題だ。『文化財返還問題を考える 負の遺産を清算するために』(岩波ブックレット)は、この問題を日本の旧植民地である朝鮮半島などに即して考える。
著者で東京都埋蔵文化財センター職員の五十嵐彰さんによると、戦前に朝鮮半島から持ち出された文化財は主なものだけでも数百点にのぼっており、「たとえ合法的に買い取られたものでも植民地経営自体に問題がある以上、地元に返還すべきもの」と主張する。
本書に出てくる大倉集古館の「利川五重石塔」や、東京国立博物館の「小倉コレクション」はすでに韓国の民間団体などから返還請求がなされている。
五十嵐さんは本書で、自身が最近行った北朝鮮の遺跡のルポルタージュや「朝鮮王室儀軌」の返還までの経緯などをたどりながら、日本国内で保管されている楽浪墳墓出土品などの返還の必要性を訴える。
「『負の遺産』の返還こそ、植民地主義の清算の第一歩」と五十嵐さん。世界的問題となりつつある、この事象の今後を考える上でもわかりやすい入門書だ。(編集委員・宮代栄一)=朝日新聞2019年12月11日掲載