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BL漫画家・ダヨオさんが萌えから創作裏話まで語り尽くす! リアル「BLことはじめ」トークイベントレポート前編

 初めてのトークイベントに挑むダヨオ先生を取り囲むのは、日ごろ“相棒”として一緒にBL作品づくりに取り組んでいる担当編集の梶川恵さん、「BLことはじめ」執筆陣の井上將利さんとキヅイタラフダンシーさんの3人。「BLことはじめ」編集担当が進行役となり、ダヨオ先生がBL沼へと堕ちていく華麗なる“萌え遍歴”をはじめ、BL漫画制作の裏側にどんどん迫ります!

ダヨオ先生の“BLことはじめ” 萌え遍歴を語る3作

──「私がBLに目覚めた本」というテーマで、事前にダヨオ先生から3作品を挙げていただきました。1作目は初めて“キャラ萌え”という感情が芽生えたという、井上雄彦さんの『スラムダンク』(集英社) です。

ダヨオ:高2で読み返したことがきっかけで、BLに目覚めました。『テニスの王子様』 の2次創作にハマっている同級生が、キャラやカップリングに「萌える~!」と悶えながら目を輝かせて夢中になっていたんです。当時はよく理解できずにいましたが、たまたま『スラダン』を読み返した時に「これがBL好きの感じる“萌え”ってやつか……!」と雷に打たれたようになって。「あれ、三井さんめっちゃかわいい!」と気づいてしまった。

──ミッチーこと三井寿のどんな点に萌えたんでしょう?

ダヨオ:それが……具体的に思い出せなくて。これってヤバいハマり方ですよね?「転んだ」と言ってよいかもしれません。ワケも分からずハマったものって人生を変えちゃうんだな、って。

井上:実は僕もミッチー推しなんですよ。「BL」という言葉も知らない小学生の時に初めて読んで、とにかくひたすら諦めない三井寿という男が大好きになりました。情熱的でピュアで、いい奴ですよね。小学生男子にとっては「カッコいい」「ずっと見ていたい」と憧れの存在。“萌え”に近いような気もして、ダヨオ先生の話に共感してしまいました。

──「これぞ三井のハイライト!」みたいなシーンはありますか?

ダヨオ:体育館を襲撃して安西先生に「バスケがしたいです」と訴えるシーン、「あきらめの悪い男」の山王戦 はみんな挙げると思うんですが、個人的にどうしても言いたいところがあって……。ゴリの家で勉強合宿をしている時に三井さん、お母さんに「今夜は泊まる」ってちゃんと連絡するんですよ!

井上:!!!(笑)

ダヨオ:基本的に私、推しキャラにお小遣いをあげたい、焼肉を食べさせたいみたいな気持ちがあって。なんだろう、三井さんのおばあちゃんになりたいんですよね。

──愛でるタイプの“萌え”なんですね。特に好きなカップリングは?

ダヨオ:最初に好きになったのが、(宮城)リョータと三井のカップリング。だから三井のことを“さん”付けで呼ぶんですよ。あと花形と藤真のカップリング。これは多分『YOUNG GOOD BOYFRIEND』にも表れていると思いますね。

──なるほど! そう考えてダヨオ先生の作品を読み返すと、新たな発見がありそうですね。続いて挙げてくださったのは、鈴木由美子さんの『おそるべしっっ!!! 音無可憐さん』(講談社) 。一見するとBL要素がない感じの作品ですが、どんなところにBL要素を見出したのでしょうか?

ダヨオ:小学生の時、榎本加奈子さん主演のドラマ版 にハマっていたんですね。ガサツな音無可憐が、思いを寄せる武田軍司の「おとなしくて可愛くて、いつも影から俺を見ているような女子が好き」という言葉に影響され、ぶりっ子キャラに変身するラブコメディです。挙げ句、軍司をストーカーまがいのクレイジーなやり方で追いかけて……。

梶川:(コミックスを見て)「超ぶりっ子超純愛でも超ストーカー。音無可憐の世界一しつこい片思い!」 って帯の煽り……編集として最高ですよ! こんな帯を打った先輩がいるんだなぁ。

ダヨオ:原作はギャグに振り切る一方で、ドラマ版では可憐の軍司に対する気持ちがより強く描かれていて、大好きなんです! 受けが攻めを・攻めが受けを好きな気持ちが濃いほど、読んでいても楽しくてしょうがないんですよね。BL要素で言うと、“執着萌え”の原点として選ばせてもらいました。

──『YOUNG BAD EDUCATION』(以下『YBE』)は水沢くんがストーカー気質で、『ロンリープレイグラウンド』(以下『ロンリー』)では雨津木さんの雪文に対する執着の描写がすさまじかったですよね。ご自身の作品にも“執着萌え”が反映されているように思えます。

ダヨオ:ご推察の通りだと思います。相手の……受けが攻めを・攻めが受けを好きな気持ちを読むだけでなく、描くのも本当に楽しいんです。テンション上がる! お互いに対する気持ちの矢印が濃い作品を描きたいです。

──テンションが上がる?

ダヨオ:はい。読む時は「いけっ!いけっっ!」って応援します。それでカップルが成立した時は「付き合ったぁぁぁ!よっしゃあ!」みたいな。「私の推しカップルが見事付き合った!」ってプラカードを掲げて歩き回りたいくらいです!

──(笑)。これからもダヨオ先生ならではの“執着萌え”を楽しみにしています! さて、最後はヤマシタトモコさんの『イルミナシオン』(祥伝社) を挙げていただきました。こちらはダヨオ先生が初めて読んだ商業BLとおうかがいしていますが……。

ダヨオ:そうなんです。私がBLに目覚めたことを知った友人が勧めてくれました。大きな事件を起こさずに、キャラクターの人間関係と心理描写だけでこんなにおもしろく読ませることができるなんて……!と初めて気づいた作品です。

キヅイタラフダンシー:3編収録されているうち、ダヨオ先生が特に気に入っているのはどちらですか?

ダヨオ:事前に質問をいただいていて考えたんですが……どれも好きすぎて決められないんですよね。テイストは異なれど、いずれも美しいシーンがあって印象に残っていて。今朝も5時くらいから読み返しちゃいました!

梶川:寝てください!

井上:(笑)。僕からも質問させてください。『イルミナシオン』は登場人物3人、それぞれの視点から描かれている作品ですよね。脇に第三者の視点がある……というのがひとつの特徴だと思いますが、ダヨオ先生が作品を描いたり読んだりする時に、キャラクターと同じ視座に立つのか、あるいは俯瞰に徹して第三者の目線で見つめているのか気になります。

ダヨオ:読む時は“壁”になりきっていますね。カッコいい攻めに私が迫られたい、って気持ちは一切ないです。受けを好きすぎて苦しむ攻め、攻めが好きすぎて苦しむ受けの姿をひたすら見ていたい。

井上:俯瞰するタイプなんですね。

梶川:ベースに“苦しみ”があるんだ! そしてやっぱりここでも“執着萌え”なんですね(笑)

みんな違って、みんないい。白熱する“萌え語り”

──ちなみに、皆さん好きなシチュエーションや受け・攻めの好みはありますか?

ダヨオ:受け・攻めの好みは圧倒的に“太陽×月”ですね。あと、強烈な片思いをしている人を描くのが好きです。相手への気持ちが濃いほど萌えるし、BLを描く燃料にもなっていると思います。

 シチュエーションとしては、ずいぶん前に『onBLUE』で、大学時代に付き合っていた男たちが再会する10ページの読み切りを描いたことがあるんですね。相手に子どもがいてバツイチっていう。そういう“気まずい再会”とか好きですね。

井上:いいですよね! 受け・攻め・当て馬の3人がいて、攻めが当て馬とチョメチョメした翌日、受けと同居している家に帰ってきたあと「じゃあね」って出かけるシーンとか。ドアを開けてドアが閉まった瞬間の顔がヤバいと思います! 罪悪感でいっぱいの攻め、片や何も知らないで見送った側とか、 いろいろ考えちゃいます。……急にすみません!

梶川:具体的で最高じゃないですか! 今の話だけできっちり萌えましたよ(笑)

「BLことはじめ」執筆陣の井上將利さん

キヅイタラフダンシー:私はどちらかと言うと、攻めが“月”で受けが“太陽”が好きですね。元気な人や適当なだらしないオジサンがほだされちゃう瞬間とか、個人的に萌えますね。

──フダンシーさんは本当に“オジサン”が好きですよね! 「BLことはじめ」での選書が、ことごとくオジサンもの(笑)。キヅイタラフダンシーならぬ……?

キヅイタラフダンシー:気づいたらオジサン好き。……危ない発言ですね!(笑)

作品づくりはキャラ先行型。孤独なキャラは描きやすい

──ここからは日ごろの創作について話を聞いていきますね。作品をつくる時はストーリーにキャラ設定、セリフとさまざまな要素を考える必要があると思いますが、ダヨオ先生はどのように取り組んでいらっしゃいますか?

ダヨオ:まず登場人物を設定します。頭の中で、常に何人か喋ったり動いたりしているキャラがいるんです。梶川さんと打ち合わせして何を描くか決める時に、物語になりそうな人を提案する。キャラクター先行型ですね。

──事前に寄せられた質問に「今までのキャラで描きやすい・頭の中で動かしやすかった人は?」「反対にいちばん描きにくい・動かしづらかったキャラは?」 というものがありました。いかがでしょうか?

ダヨオ:友人が少ないキャラは描きやすいですね。孤独な時間が長い人ほど、モノローグがするする浮かぶ。相手に迷惑をかけるキャラクターも描いていて楽しいです! 『YBE』では先生を振り回す水沢。『ロンリー』だと針間は雨津木さんへの“迷惑爆弾”ですから(笑)。現実で関わりたくない人ほど、テンションが上がって筆が進みます。
 反対に描きにくいキャラは……『ロンリー』の雪文ですかね。彼は前半、言っていることと思っていることが乖離しているので。彼の葛藤をうまく伝わるように描くのが難しかったです。

──セリフについてはいかがでしょうか? ツイッターにはこんな質問が寄せられていました。

ダヨオ先生の作品の言葉選びが印象的でとても好きなのですが、何か着想を得るきっかけはあるのでしょうか?

例:ロンリープレイグラウンドの慧介くんの『ラッキーが過ぎるだろ』YOUNG書き下ろしの高津先生の『急に心がやぶけそうになってしまった』等…

ダヨオ:モノローグには悩まず、自然に出てくるので着想のきっかけは特にないんですよね。でも、そのシーンにぴったりなモノローグやセリフをあてはめたい。必然性を高めるために、言葉選びには気を遣っています。

井上:言葉選びといえば、気になったシーンがあって。『YBE』の冒頭、「先生のベロの感触を知ってる」という水沢くんのモノローグから始まりますよね。読者の想像を掻き立て、作品世界にいざなうような演出だと感じました。ダヨオ先生の中で、物語の冒頭を描くにあたってのこだわりはありますか?

『YOUNG BAD EDUCATION』より ©︎ダヨオ/祥伝社on BLUE comics

ダヨオ:第1話っていちばん悩むんですよね。“その先”に興味を持ってもらうために、キャラクターの魅力を説明的な表現に頼りすぎずに伝えるのが大切だと感じていて。とにかくずっと緊張状態で、ウンウン唸りながら描いています。

──ストーリーやキャラクターのお話をしていただきましたが、ダヨオ先生といえば絵が本当におキレイで、見ているだけで楽しめます。今回、ご来場記念のプレゼントとして描き下ろしていただいたコースターのイラストもすごく素敵で、食べ物がおいしそうに描かれているんですよね。そこで、ツイッターにはこんな質問が来ています。

ダヨオ先生の絵がとても大好きです!(お話はもちろん)
どうやったらダヨオ先生みたいに絵が上手くなれますか?
練習とかしましたか??

ダヨオ:最近、描く時に「私は絵がうまい」「いい線が引けるに違いない」と思うほどいい絵になると感じています。逆に「どうしてこんな絵しか描けないの?」と自分を責めるとうまくいかないことが多い。ネームもそうで、のびのび描くのがいちばんです。

イベント特典の描き下ろしコースター

キヅイタラフダンシー:作画はもちろん、キャラ・ストーリー・シーンを考えて作品を完成させるまでには非常に根気がいると思います。先生はどうやって気分転換していますか?

ダヨオ:ネームでよく悩むんですが、外に出て歩き回っています。だから私の作品には夜のシーンが多いのかなって(笑)。20~21時に外出して、散歩して帰って1時間ネーム描いて寝る……みたいな。

梶川:ダヨオ先生は「健康的に過ごした方が生産的」と理解したら、きちんと実行するんですよね。「やった方がいいんだろうなぁ」とボーっとすることはなくて。行動力があるタイプだと思います。

ダヨオ:頭を使うネームは喫茶店でやると捗ります。コーヒーを混ぜると香りに癒されますしね。

梶川:喫茶店リストがありますよね?

ダヨオ:その中にネームができるジンクスを持つ喫茶店があるんですけど……でもいちばん進む店がつぶれちゃったんです!

梶川:それは痛い!

ダヨオ:新しいところ見つけないと……。

梶川:喫茶店リストの使い方もおもしろくて。ひとつの店で捗らないと次に行くんです。で、とっておきの店は“取っておく”んですよ? 編集者になって「こんな人初めて」って思いました(笑)。『ロンリー』はご自宅での作業が多かったですけど、昔は編集部で作業されることもありましたよね?

ダヨオ:そうですね、編集部は本当によく通っていました! 鍋をつくってもらって、よく食べていましたね。ネームができない“罪人”の身で。

梶川:罪人って(笑)。でも寒い時期は外で作業して風邪やインフルエンザをうつされるより、ご自宅で全部やれたらいちばんいいと思いますよ。

(後編につづく)

>BL漫画家・ダヨオさんが明かす『ロンリープレイグラウンド』制作秘話! リアル「BLことはじめ」トークイベントレポート後編はこちら