ダヨオ先生の華麗なる“萌え遍歴”から作品づくりにまで迫った前編に続き、後編では最新刊の『ロンリープレイグラウンド』について深掘りしたトークをお届けします! 担当編集の梶川恵さん、「BLことはじめ」執筆陣の井上將利さんとキヅイタラフダンシーさんを交えたトークは盛り上がり、作品の誕生秘話やキャラ設定、お気に入りのシーンなど、貴重な話が次々と飛び出しました。
>BL漫画家・ダヨオさんが萌えから創作裏話まで語り尽くす! リアル「BLことはじめ」トークイベントレポート前編はこちら
編集者からの提案で生まれた“スパダリ攻め”
──続いてはダヨオ先生の最新刊『ロンリープレイグラウンド』(以下『ロンリー』)についてお聞かせください。先生と生徒のカップルがほろ苦くも甘い恋愛を繰り広げる前作の『YOUNG BAD EDUCATION』(以下『YBE』)から、作品の雰囲気がガラリと変わりましたよね。井上さんも同じ印象を受けたとか?
井上:ずいぶんハードになりましたよね。三角関係や調教、明確な闇属性の登場人物など、ダヨオ先生の過去作にはない、新しい要素を織り交ぜて描かれた作品だと感じました。そのきっかけになった出来事や、それまでになかったご苦労などがあればお聞かせいただきたいです!
ダヨオ:次の連載を考える時に、梶川さんから「前作と全く異なる作品を」と求められました。最初は幼馴染が再会するネームを描いていたんですけど、第1話で受けと攻めをセックスさせることができなくて。レイプを描きたくなかったので仕切り直すことにして。そこで梶川さんから提案のあった“スパダリ攻め”を描くことにしました。
自分の引き出しになかったアイデアだったので、どうしたら私らしい作品にできるかな……と考えて、「受けが攻めの甘々シャワーを浴びながら、自分の“身体”を取り戻していくハッピーな話にする!」と決めました。
注)…「スパダリ」とは「スーパーダーリン」の略。一般的にはすべてが完璧な男性のことを指すが、その細かい定義には個人差がある。
──梶川さんが“スパダリ攻め”を依頼した意図はどこにあったんでしょうか?
梶川:非常に才能のある漫画家さんなので、息の長い作家人生を送って欲しくて。大傑作『YBE』に続いて新作も同じテイストを皆さんに差し出したら、この先ずっと似たような作品を求め続けられるだろうなって感じたんです。だからいろんな趣向の作品を世の中に提供して、長く描いて欲しかった。
ただ「性暴力性のある作品は描きたくない」という先生の意向も理解していたので、光の攻め……“スパダリ攻め”で勢いを出しつつ、「互いを愛する気持ちを描いて欲しい」と依頼しました。
──どうやって制作していったんでしょう?
ダヨオ:自分の引き出しにないタイプの作品をやることになったので、無いところを漁っても何も出てこないと思って、まずいろんなコンテンツを栄養として摂取しました。
インスパイアされたのは、韓国映画の『お嬢さん』ですね。日本人少女が韓国人メイドの愛によって縛りから解放される物語。解き放たれるシーンがすごくよくて心に残っています。『ロンリー』も縛られていた受けが“スパダリ攻め”によって解放される話なので。
キャラ設定は時に細かく!
──これぞ“裏話”だと思いますが、登場人物のバックグラウンドについても教えていただけませんか?
ダヨオ:慧介は当初“ヘタレ攻め”として頭の中に存在していたキャラクターですが、つくり変えて“スパダリ”にしました。モデルは……申し上げるのは非常におこがましく気後れしてしまうのですが、劇団EXILEの鈴木伸之さん。彼が演じている、『HiGH&LOW』シリーズのヤマト……正義感が強く、体が大きくていっぱいごはんを食べるようなイメージですね。
“受け”の雪文は……パッと見は地味だけど、関わっていくほどにかわいさが際立つキャラを意識しました。顔の雰囲気だと、口元や目元のやわらかい印象が素敵な荒牧慶彦さんでしょうか。舞台の『刀剣乱舞』シリーズでご活躍です。
7年も雪文を調教していた雨津木さんは、父の会社を継ぐことをいちばんに求められて生きてきた人。だから抑圧されているんですね。下の名前は“正しく継ぐ”と書いて「正継」といいます。イメージは、睫毛が長くスーツがよくお似合いの堀部圭亮さんに近いかな。
梶川:いま初めて聞きましたよ! 皆さん、隣の方とスマホ検索してイメージを共有しあっている様子がすごくいいですね!(笑)
──下巻の番外編 に登場する針間くんの設定は?
ダヨオ:辛いものが大好きで、ドンキで「プルダックポックンミョン 」という韓国の激辛カップラーメンを買って、昼休みに雨津木さんを見つめながら食べています。
梶川:かわいい! やっぱり執着してるんですね(笑)。
作中に漂う“香り”のひみつ
──さらに読者から反響があったのは、作品の中で語られる“匂い”です。慧介が雪文に買ってきたレモンのシャンプーや雨津木さんの香水など、嗅覚に訴える描写が多いですが、こちらは意図して描いたのでしょうか?
ダヨオ:印象に残るアイテムがあると作品の強度が増すと思って設定しました。『YBE』では“時計”で、『ロンリー』は“香水”ですね。さらに五感に訴えるアイテムは物語が広がる気がして、香りや食べ物の描写を入れるようにしています。
梶川:画面からさらに物語を広げようとしていたんですね。初めて知りました!
──皆さんからも香りにまつわる質問がいくつか来ています。「慧介がレモンのシャンプーを雪文に贈った意図は?」「雪文が雨津木さんからもらうはずだった香水はどんな匂いがするの?」 ということですが。
ダヨオ:慧介は「雪文は香水が好きだから」とは考えていないと思いますね。少し背伸びすれば自分でも買えて、雪文に似合うリッチなシャンプーを選んだのかな……と。モデルは特にありません。雪文が雨津木さんにもらう予定だった香水は「サンタ・マリア・ノヴェッラ 」がモデルです。シトラスの香り。
直接的に描いていないんですが、雪文にとって慧介が選んだシャンプーのレモンの方が結果的に残ったということですよね。
──あともうひとつ、ツイッター上で香りにまつわる質問が来ておりまして。
雨津木さんのつけている香水の香りは何系ですか?(針間くんの「脚までいい匂い」というセリフが気になりました)
ダヨオ:雨津木さんはウッディで重い香りですね。足首につけているから「脚までいい匂い」なんだと思いますよ。個人的な趣味ですが、ウッディの中に甘いフローラルが香ったらグッと来ます。「抱かれろ! あのでかい清掃員に!」ってなる!
目指したのは、エロとモラルの両立
──あはは(笑)。ちなみに、ダヨオ先生のお気に入りシーンは?
ダヨオ:いちばん気に入っているのは、上巻ラストで慧介が雪文に告白するシーン。本当にこだわって描きました。
梶川:雨津木に7年も調教されてきた雪文が、慧介から「今のあなたが最高」と全面的に肯定され、お風呂で号泣してしまうシーンですね。読んでいて涙が止まらなくなりました。ずっとひっそりと一人で書いているmixiの日記に、思わず「最高じゃない?」って書き込んだほど。
ダヨオ:ずっと暗闇の中で描いているようで不安だったんですけど、梶川さんからmixiの話を聞いてすごく嬉しかった!
梶川:自分の中で、この作品の到達地点を「モラルをアップデートしていけるエンタメ」と置いていたんです。 エロが強い昨今のBL業界で、エロいけどモラルを描いてしらけさせずに成立させるってかなりの技術。だから私も上巻ラストはすごく気に入っています。
──そんな梶川さんのお気に入りシーンは?
梶川:私は趣味が悪いので……雨津木が打ちのめされたシーンですね。目つきの悪い奴はみんな受けになればいい!と思っているので(笑)。読んですぐダヨオ先生に電話した時、作中のセリフを文字って「5億点あげる」って言っちゃいました!
井上:僕は数ある好きなシーンの中で、雪文が慧介のタバコをくわえる一連の流れが特に気に入っています。この何とも言えない表情 ……雪文は何を思っていたんでしょうか?
ダヨオ:これは「雨津木さんに飼われる前はこんなアパートにいたな」と思い出しているシーンですね。モノローグを入れようと思っていたんですけど、『ロンリー』は展開のスピード感を重視しているので、しんみり停滞するようなシーンは極力削りました。
──モノローグを省き、絵だけで表現されたんですね。他にもシーンに関する質問が来ております。
作中に雪文と慧介のキスシーンが沢山ありますが、その時のそれぞれの気持ちの尺度を考えながらシチュエーションと合わせて思う存分楽しませて頂きました。この中で先生が1番好きな場面、またはこだわりのキスがあったら是非教えて下さい。
ダヨオ:慧介と雪文のキスシーンは“飴と鞭”でいうところの「飴」なので、描いていてどれも楽しかったですよ。特にスライドの左の2点が気に入っています。
ダヨオ:左から2点目は、帰り際に別れる時のキスですね。これは慧介の“光の攻め”感が炸裂していて思いっきり行っちゃうところ。あといちばん左の雪文が昼休みに耐えきれなくなって、慧介が働く中華料理屋に来て告白するシーンもいい!
キヅイタラフダンシー:私はいちばん左に1票ですね。受けが攻めの胸元を引っ張ってキスするの、かわいい!
井上:僕は左から2つ目ですね。路地裏の汚いところに追い込まれた感が……“壁”のアスファルトになりたい。
梶川:路地裏の壁ドン、たまりませんよね……! ただ「これまで雨津木に虐げられていた雪文が、本当に欲しい相手(慧介)をつかんだ」という物語に照らし合わせると、私はいちばん左のキスが本当に素晴らしいと思います。
──私も同感です! なので(スライドで)大きめに扱ってみました!
ダヨオ:ありがとうございます(笑)。
──ちなみに、皆さん気になっていると思いますが……『ロンリー』続編や針間・雨津木カップルの行く末を描くご予定はあるんでしょうか?
ダヨオ:これはまだ言えないんですけど、頭の中にはあるので何かしらの形で描くとは思います。
──今から楽しみですね! それでは最後にひとつ、教えてください。ダヨオ先生がこれからチャレンジしてみたいテーマは?
ダヨオ:今回、私は初めて雨津木さんを通じて「悪い奴の話を描くの楽しい!」と目覚めました。描き終わったあと、梶川さんに「悪の限りを尽くしてやるよ!」ってLINEしたほどです。
梶川:そうでしたね!(笑)
ダヨオ:一方で、学生時代に仏教校に通っていたので“僧侶”とか、“おじさん”同士のカップルにも興味があって。新しく開眼した“悪”と一緒に、ほのぼのした“善”も描きたい。その両方を考えていますね。
梶川:『onBLUE』で勝手に「どの順番でやってもらおうかな」って考えちゃいました! 私はすぐ思索の世界へ飛んで行っちゃう。
ダヨオ:梶川さん、これからも頼りにしています!
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漫画家と編集者の二人三脚ぶりに目を細めつつ、このあとイベントは事前に寄せられたさまざまな質問にダヨオ先生が答えていく質問タイムに突入。気になるBL作家(碗島子さん)、キャラクターのテーマソング(『ロンリー』慧介=B’z「愛のままにわがままに 僕は君だけを傷つけない」、ゴールデンボンバー「元カレ殺ス」 など)、次に行きたい海外旅行先(冬で短期間ならマルタ島、夏で長期ならノルウェーのフィヨルド巡りやフィンランドの北極圏)などの話題で盛り上がりました。ラストは11月15日に誕生日を迎えたダヨオ先生にサプライズの花束が! 全員でお祝いして、会を締めくくりました。