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「ガンバの冒険」シリーズ半世紀、斎藤惇夫さんインタビュー たくましきネズミ、重なる民主主義

斎藤惇夫さん=2019年12月26日、さいたま市浦和区、興野優平撮影

安保で挫折、くすぶった思いは生き残り希望つなぐ

 斎藤さんの1970年のデビュー作『グリックの冒険』は、人間に飼われたシマリスが故郷の森を目指す物語だ。そして主人公を励まし、道案内をするのがドブネズミのガンバだった。ところが刊行後、脇役への反響がすさまじかった。子どもたちから届いた段ボール数箱分もの手紙は、多くがガンバの続きを求めていた。

 その声に応え、次作の『冒険者たち ガンバと15ひきの仲間』を書き上げた。人間が放したイタチの脅威にさらされた島のネズミが、助けを求めてくる。町に暮らすガンバは、危険を顧みず島に渡ることを決意。ガンバと、ガンバの強い言葉に動かされた15匹のネズミたちは、妖しくも獰猛(どうもう)な白イタチのノロイを相手に知恵を振り絞って渡り合う。

 ネズミは、人間をうまく利用しつつ共存する。そんなたくましさが、続編の『ガンバとカワウソの冒険』で一層浮き彫りになる。人間の乱獲や環境汚染によって滅びゆくニホンカワウソが対照的に描かれるからだ。作中、あるネズミはいう。「おれたちみてえにヒトを利用して生きるのはいいんだ。だがこのカワウソには無理だ。いっぺんに殺(や)られる」

 「害獣」として嫌われ、駆除されることの多いネズミだが、最近でも東京・築地から豊洲への市場移転に伴ってネズミ対策が話題になるなど、しぶとく生き残る。斎藤さんの埼玉県の自宅にも、時折やってくる。「ガタガタと音を聞くたびにうれしくなる。ネズミ捕りにやられるようなやわなもんじゃない」

 斎藤さんは、60年の安保闘争を20歳で経験した。東大生の樺(かんば)美智子さんが亡くなった日も、同じ国会前にいて、渋谷まで走って逃げた。その後は福音館書店の編集者として、絵本の編集に長く携わった。

 デビュー作『グリックの冒険』の主人公のシマリスには、当時の自身の思いを託した。旅の途中、動物園に紛れ込んでしまい、園での安住に心が揺らぎながらも、故郷を目指す一念を貫く。「安保闘争の敗北感みたいなものがくすぶっていた。20代後半にもなると、当時の仲間もそれぞれの会社で立ち回り、組織に入り込んでいく。『昨日までいっしょにデモしていたやつがなんだ。絶対おれはそうはならないぞ』と思っていたものの、どうしたらいいのかわからず書いたところもあった」

 ところが、人気が出たのはネズミだった。「私のペンではとうてい追いきれないほどわがままに行動し、ついにはシマリスを主人公の座から追いはらおうとしはじめたのです」と斎藤さんは『冒険者たち』の少年文庫版あとがきで振り返っている。

 安保闘争で挫折を味わったが、いまは希望を見いだす。当時運動に燃えた人たちが、しぶとく、それぞれの持ち場で信念を持ち続けていると感じられるようになったからだ。

 学生団体「SEALDs(シールズ)」による安保法制への抗議デモに何度か参加した。「ふと見れば同世代が多いんですよ。おじいちゃん、おばあちゃんが。そうして若い人たちに継続されていく」

 斎藤さんにとって、ネズミのたくましさはいつしか、戦後日本の民主主義の象徴となった。「ネズミに思いをはせると、いつも、戦後民主主義をどんなことがあってもついえさせてはいけないという思いに行き着く。どちらも、やられてもやられてもたくましくよみがえる」(興野優平)=朝日新聞2020年1月8日掲載