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「オランダの文豪が見た大正の日本」書評 伝統・習俗・自然まで本音の批評

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2020年01月18日
オランダの文豪が見た大正の日本 著者:ルイ・クペールス 出版社:作品社 ジャンル:紀行・旅行記

ISBN: 9784861827693
発売⽇: 2019/10/21
サイズ: 20cm/350p

長崎から神戸、京都、箱根、東京、そして日光へ。オランダの大文豪ルイ・クペールスが、その最晩年の1922(大正11)年の春から夏にかけて日本を訪れた際に記した紀行文。写真7…

オランダの文豪が見た大正の日本 [著]ルイ・クペールス

 著者は、19世紀末から20世紀初めに活動したオランダの作家である。小説の他に詩や紀行文も発表している。本書は、著者が夫人とともに大正11(1922)年春に来日し、5カ月間滞在したときの日本印象記である。著者が持ち帰った写真が掲載されていて、私たちも大正を映像で見ることができる。
 当時のヨーロッパの知識人が日本を見る目でもあろうが、著者の関心は、神社仏閣、伝統芸術、武家政権の時代習俗、自然の風景、人々の正直な姿と実に幅広い。旅の途中に病で倒れ、7週間ほど入院したときの医師やナースとの会話なども紹介されている。
 著者の日本を見つめる目は、決して温かくはない。心理の内面、その本音を見る作家の目があるためであろう。清潔で優美かと思えば不潔、芸術的に繊細かと思えば粗野、話し方は日本語にせよ英語にせよ「下品」といった具合だ。
 漆塗りの敷居と紙の障子の家が、兜や太刀で武装された者たちの動き回った、野心と陰謀の世界をどうして生き延びたのか、謎であるとの指摘は興味深い。つまり著者は、ヨーロッパの戦乱の時代の感覚とは異なる、日本人の武を文と混在させる心理を解析しようと思いつつ、自分たちには理解できない二重性があると告白しているのだろう。
 著者夫妻には、カワモトという有能な通訳がいて、ガイドの役も引き受けている。この人物の略歴などは語られていないが、英語に堪能なだけでなく、日本文化に通じていることに驚かされる。著者も信頼を寄せている。旅先で病気になったのはご不幸というわけではない、とカワモトが諭す言葉は、著者の印象に残ったらしい。
 著者はこの先の日本はどうなっているかと問う。アメリカと戦争をするか、中国とはと語りつつ、「やがて、思い上がりがすぎ、結局は没落してしまうだろう」という。見事に言い当てているのである。
    ◇
 Louis Couperus 1863~1923。オランダの作家。同国学術アカデミー編集の全集(全50巻)がある(未邦訳)。