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「れきしクン」こと長谷川ヨシテルさんインタビュー 「ヘンテコ城めぐり」は一生付き合える趣味

文:若林良、写真:佐伯航平

「五稜郭」には仲間がいた?

――「実はたくさんある二条城」や「一夜でつくられた城」など、本作には城についてのトリビアが詰まっていますが、私としては、五稜郭に仲間があったというのは驚きでした。

 北海道には三稜郭、四稜郭、七稜郭がありました。四稜郭は上から見ると、蝶が羽ばたいているようにも見える、すごくきれいな場所です。三稜郭は正式には「桔梗台場」、七稜郭は正式には「峠下台場」と呼ばれるお城です。

 長野県にももうひとつの五稜郭、その名も「龍岡城五稜郭」があります。軍事オタクの殿さまがフランスの軍事システムを勉強して、自分でも造ってみたくなって、幕府の許可をもらって築城したんです。函館の五稜郭は港を守るために造られた、つまり海沿いに造ることを前提とした建物なんですけど、龍岡城五稜郭はめちゃめちゃ内陸に造られた、けっこう異色の城です。冬に行くと、堀が凍っているのできれいです。

龍岡城五稜郭(長谷川ヨシテルさん提供)

――「行った自慢」のお城について、教えていただけますか。

 北海道にある、根室半島チャシ跡群ですね。「チャシ」というのはアイヌ民族の言葉で「柵囲い」の意味で、アイヌの方々にとってのお城です。根室半島には30カ所以上のチャシがあって、崖の上に作られているものが多い。特にヲンネモトチャシは眺めがよくて、オホーツク海や北方領土を眺めることができます。

 場所自体は何もない跡地みたいな感じなんですけど、なんで自慢かというと、行く難易度が高いからなんですね。たんちょう釧路空港に行って、そこから車で4時間くらいかかる。日本100名城の一つなんですけど、番号はなんと「1番」。それだけに、お城好きには自慢できるんです。

根室半島チャシ跡群(長谷川ヨシテルさん提供)

――いろいろな城がありますが、「城」の定義とは何でしょうか。

 弥生時代の集落の吉野ヶ里遺跡が参考になるかと思います。土を掘って土塁にすることで、堀も一緒にできますよね。堀と土塁ができて、守られている空間があればそれがお城なんです。城については、環濠集落という言葉で説明されることもあります。

――後世に修復された城も多いですが、できた当初とはどこが違うのでしょう。

 コンクリートとか使っている材料が違うということと、見た目の違いも大きいですね。たとえば、屋根に破風という、装飾系のパーツが付け足されていることがあります。江戸時代の初期に作られた天守って、破風はそれほど用いられてはいないんですが、再建する時これはかっこいいからとか、観光の視点から付け足されたんです。

長谷川さん「イチオシの城」

――ずばり城の魅力とは、どのような点にあると思われますか。

 大きいのはビジュアル面ですね。シンプルにかっこいい。城には、お寺や神社から応用された日本の建築技術のすべてが凝縮されているんです。日本人の心に訴えかけるものは絶対にありますし、天守(城の中心部に設けられた大櫓)に登った時の景色とかはたまりません。というのも、お城は見張りの意味もあったので、海とか街道とか川とか、人の生活に必要なものが視野に入るように場所を選んでいる。特に山城からの眺めは最高ですよ。

――城というとなかなか縁遠い存在にも思えますが、私たちの身近にもあるんですね。

 お城ってもともとは役所の役割もありましたし、平地になっている場所も多いので、施設として再利用しやすいんです。学校や観光施設になったりもします。また、町に何か起こった時に、精神的な支えというか、復興のシンボルにもなりえます。最近で言えば、福島県の白河小峰城も、東日本大震災で被害を受けましたが、その修復も昨年完了しています。そんな僕自身はお城が好きすぎて、いま世田谷城の城跡に住んでいます。だから本当に、城=日常という感じですね。

――長谷川さんの、イチオシの城をお教えいただけますか。

 神奈川県にある石垣山一夜城ですね。秀吉が小田原征伐の際に作った城で、僕にとっては特別な城です。歴史好きになってすぐくらいの大晦日に、何かしなくちゃ、そうだ初日の出を見ようと、家から石垣山一夜城に行きました。それから毎年行くようになって、そのうち、パティシェの鎧塚俊彦さんのお店(一夜城 ヨロイヅカ・ファーム)ができました。そこで元旦にシチューを食べて、1年をスタートさせるのが恒例になりました。

 今年はちょっと変わった趣向として、石垣山一夜城で私服の僕を発見した人にはシチューをサービスするというイベントを企画しました。僕は先日、クイズ番組で優勝して100万円をゲットしたので、それを元手にしたんです(笑)。結構集まっていただいたのですが、シチューが売り切れてしまったので、お菓子の福袋をみんなでシェアしたりしました。楽しい時間でしたね。

今年の元日に長谷川さんが石垣山一夜城で撮影した初日の出

――そうした交流があるのはいいことですね。

 意外と歴史好きって、交流しづらいんですよ。好きな時代が分かれたりもしていて。かつ、知識がないと舐められたくなかったりとか、逆に知識を自慢したいとか、一種のマウンティングもあって(笑)。僕がつなぎ役になって、交流のための場を作っていきたいとは思います。

きっかけは自身の名前「ヨシテル」から

――長谷川さんはどういうきっかけで、歴史に興味を持たれたのでしょうか。

 今のような仕事をしていると、「もともと歴史が好きだったの?」と聞かれますけど、そういうわけでもありません。大学までは受験レベルの歴史の勉強しかしてきませんでしたし、受験科目の成績も、英語、国語、日本史という順番でした。

 転機になったのは、野球の挫折ですね。僕はずっと野球を続けていて、大学でも野球部に入りました。ただ、まわりはすごい人ばかりで、自分の力では試合に出ることも難しかったんです。その部活には付き人制度というのがあって、1つ下の同じポジションの後輩に厳しく私生活とかを指導するんですけど、僕についた後輩が、甲子園で優勝した日大三高のキャプテンだったんですよ。僕は試合に出れなくて、彼は最初から試合に出ていて、もう精神がぐちゃぐちゃになって(笑)。そんなこんなで、2年の秋に部活を辞めました。

 退部後は、今までできなかった大学生らしいことをやろうと思いました。大学生らしいことと言えば旅行だなと、アルバイトでお金を溜めて、パリ・ローマ10日間の海外旅行に出かけました。でも、出発の時に違和感を覚えたんです。行きのフライトから窓を見て、日本がきれいだなと思ったと同時に、「あれ、俺日本のことを知らないのに、なんで海外に行こうと思ってんだろう」と、急に恥ずかしくなって。プラス、現地ではカツアゲにあったりして、やっぱり日本がいいなと思いまして(笑)。帰ってからは、日本の歴史を勉強しようと決めました。

――勉強はどのように進められましたか。

 まずは「これでわかる日本史」みたいな本を買いました。だけど、最初は先土器時代で、記録がないので人物も出てこないし、当時はドラマがないように感じて面白くありませんでした。もっと歴史に興味を持つにはどうすべきかと思って、インターネットでなんとなく自分の名前を検索しました。そうしたら、僕の下の名前は「ヨシテル」ですけど、「足利義輝」という室町幕府の将軍がいることがわかったんです。剣の腕がものすごくて、織田信長とか上杉謙信とも親交があり、人望もあったと。その最期にも逸話があって、家臣に謀反を起こされて追い詰められるものの、足利家に伝わる国宝級の刀を巧みに操り、何人もの敵を道連れにして力尽きたのだと。まあ、後世に作られたフィクションも入っているんですけど、当時はかっこいいと思って、まずこの人と、その身の回りのことを勉強しようと思いました。

 それで、楽しみながら歴史を学ぶにはゲームが一番だと思って、「信長の野望」に手を出しました。主人公に足利義輝を選んで、室町幕府の再興にチャレンジしたらそれが「使命」みたいになって。全クリアするのに3日間かかり、その間はほぼ水だけで乗り切りました(笑)。ゲームをプレイする過程で分からない言葉があった時はすぐネットや本で調べて、人物の知識を伸ばしていきました。

――歴史を好きになるメリットは、何があると思われますか。

 よりよく生きていけること。それに尽きると思います。たとえば、原宿の一部は江戸時代に忍者が開拓した町だとか、身近な町やものの由来を知っているだけで、見えるものが変わってくるんですよ。信長の座っていた石だとか言われたら、本当かとも思いつつ、楽しいじゃないですか。旅行で雨が降って少しブルーになっても、そういえば、桶狭間の戦いでは雨が降ったことが信長の勝因になったんだとか、そういう風に楽しめる。こういったことは少し調べるとすぐに出てくるので、コスパがいいんですよね。

 歴史とか城って、一見自分とは縁遠いように見えても、決してそうじゃありません。たとえば、関ヶ原の戦いや小田原攻めでは、20万人から30万人が戦闘に参加したと言われていますが、当時の人口は1500万人前後らしいので、50人に1人くらいがそこにいた計算になる。ということは、自分の先祖をたどればそうした戦いに参加していた可能性が高いですし、自分の住むところに近い城だったら、先祖が何かしら関わっていた可能性も高い。

 僕のケースを紹介すると、忍城という、秀吉の小田原攻めを耐えきった城があります。小説でも話題になった「のぼうの城」ですが、隣町なんでちょっと調べてみたら、先祖が籠城している可能性があることがわかりました。僕の一番好きな武将は石田三成なんですけど、彼は忍城攻めの総大将だったんです。自分の先祖を攻撃した人が好きとか、禁じられた恋みたいで、なんか楽しいじゃないですか(笑)。城の数は膨大で、1日ひとつ巡ってもなくならないくらいの数が日本にはあるので、一生付き合える趣味です。もちろん全部に挑戦してくれとは言いませんけど、僕の本で何かしら歴史に興味を持ってくれると嬉しいです。