「世界の起源」書評 地質の必然から逃れられない
ISBN: 9784309254029
発売⽇: 2019/11/25
サイズ: 20cm/346p
世界の起源 人類を決定づけた地球の歴史 [著]ルイス・ダートネル
人類は「プレートテクトニクスの申し子」。地球を覆うプレート(岩板)の運動は陸や海の配置を決め、気候や海流を左右、人類が生きる環境をつくる。豊かな土壌も生み出し、プレートがぶつかり合う境界は「主要な古代文明の場所を重ねてみれば、驚くほど密接な関係がおのずと浮かびあがる」。
地球と人類の歴史の新しい物語は、ジャレド・ダイアモンドらが紡いできたが、本書は太古までさかのぼり地質学的な事象と人類の関わりを読み解いていく。「地球が僕らをつくった」と痛感、歴史が苦手で地学が好きな読者には小気味よいだろう。
さまざまな地質作用は、石油や石炭、現代のハイテク機器に欠かせない希少元素資源を偏在させた。地球が作り出す恒常風や海流は航路の開拓に直結、硬い変成岩はニューヨークの高層ビルを支える。
政治にも映し出される。
白亜紀の地層からできた綿花栽培に向く土壌の分布は、アメリカ南東部の民主党が強い帯状の地域と重なる。イギリスでは、炭鉱地帯の労働党地盤として石炭紀の足跡が残る。
プレート運動でできたチベット高原は、周辺地域を支える水資源を蓄え、中国が「人口と経済のために支配しようと画策」する。
技術や社会が発展しても、我々は地質学の必然性から逃れられない。
今、地球が人類に及ぼす力はなにか。地球にとっては短期的、人類にとっては長期的な前提は、文明の歴史全体が氷河期(氷期)と氷河期の間の中休みで暖かい時期の「ほんの一瞬の出来事」であること。
ごく短い時間に人類は自ら起こした温暖化という地球規模の変動と向き合う。日本では地震や台風の被害から「大災害の時代」とも言われる。つかの間の時代のことが、人類にどれほど影響するかはわからないけれど、国や社会を動かそうと、それを声高に叫ぶ時代ではありそうだ。
◇
Lewis Dartnell 1980年生まれ。英の宇宙生物学者。著書に『この世界が消えたあとの 科学文明のつくりかた』。