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綿矢りささん「生のみ生のままで」に島清恋愛文学賞 女性の同性愛テーマの恋愛小説、2年連続受賞

綿矢りささん

綿矢りささん「生のみ生のままで」 悲恋よりハッピーエンドに

 《男も女も関係ない。逢衣(あい)だから好き。ただ存在してるだけで、逢衣は私の特別な人になっちゃったの》

 『生のみ生のままで』では、彼氏と旅行中に知り合った女性2人が、互いにそのつもりはなかったのに恋に落ちてしまう。2人とも、それまで当然のように自分を異性愛者ととらえていたが、感情はそんな垣根をやすやすと越えた。

 選考委員の林真理子さんは選考会後、「新しい恋愛の形を書いた小説に賞を差し上げたいと思っていた」と述べたうえで、受賞作について「ハッピーエンドが非常に新しい。ここが本当に素晴らしくて、やっと日本でもこういう同性の恋愛小説が出てきたんだなと思った」と講評した。

 林さんは、これまで女性同士の恋愛を題材にした小説として、2002年の直木賞候補になった中山可穂さんの短編集『花伽藍(がらん)』を挙げた。

 主として登場するのは、同性愛者、あるいはバイセクシュアルと自覚する女性たち。冒頭の一編「鶴」では、異性愛者の人妻と恋仲になった女性が、自分が本当に彼女を満足させられているのか悩む。それは、異性愛と同性愛では愛し方が違うことを前提にした悩みだった。

 受賞を伝えられた綿矢さんは「女性同士に限らず、男性同士の恋愛も、長い歴史の中で取り上げられてきているけれど、現代から離れるほど、悲恋のものが多い印象がある。現代の同性同士の恋愛を考えたとき、ハッピーエンドにしたいと思った」と話した。

当然発生するものと思って 三浦しをんさん「ののはな通信」

三浦しをんさん

 島清恋愛文学賞は1994年から続く。第25回となった昨年、同性愛がクローズアップされた作品が初めて受賞した。三浦しをんさん『ののはな通信』(KADOKAWA)は、女子校で生涯に一度しかない恋を育んだ2人の女性の生き様が、人生の様々な局面で交わされる書簡を通じて描かれる。性愛に関しては、一人は潔癖に、限られた女性しか愛さない。もう一人は男性と結婚し、その時々に女性たちとも性的な関係をつくる。

 《どうして言葉なんてあるんだろう。友情とか恋愛とか、男とか女とか、言葉はなにかを区別し、分断するためにあるとしか思えない。言葉がなければ、私たちはただ一緒にいられたかもしれないのに》

 三浦さんは贈呈式で、「性別に関係なく、恋愛感情は当然発生すると思って書きました」と話している。

 この賞は、石川県出身の作家、島田清次郎(1899~1930)にちなむ。主催する地元の金沢学院大学の文学部の学生たちが、約20作品から3作程度まで候補作を絞り込み、選考委員に委ねる仕組みだ。

 指導する水洞(すいどう)幸夫教授(日本近代文学)は、『生のみ生のままで』が候補に挙がり、学生たちに2年連続で同性愛が題材の作品が受賞する可能性を指摘した。すると、意外な反応がかえってきたという。「言われて初めて気づいたというようにきょとんとしていた。熱烈に推す学生も同性愛だからでなく、文章の力にひかれていた。我々みたいに構えてはいなかったんです」

 女性同士の恋愛を描いた文学の系譜には、谷崎潤一郎『卍(まんじ)』や同性愛の苦悩を描いた吉屋信子の作品がある。それらに比べ、『生のみ生のままで』は「じめじめしたところがなく、恋愛らしい恋愛を描いている」と評する。ここ数年、同性愛はドラマにも取り上げられ、「社会の流れとしても特別なことではなくなっていると感じる」と話した。(興野優平)=朝日新聞2020年2月19日掲載