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日本犬の専門誌「Shi―Ba(シーバ)」 ふり切れた愛、わからないよ

 以前読んだ片野ゆか著『平成犬バカ編集部』という本に「Shi-Ba」のことが載っていた。それによれば、柴犬好きの編集者が作った、ひたすら柴犬愛が暴走している破天荒な雑誌だとのこと。

 犬猫を飼ったことがない私には、ペット雑誌などどれも同じに思えたのだが、ためしに読んでみると、これが本当に濃かったのである。濃すぎてところどころ意味がわからなかったほどだ。いや、書いてあることはわかるのだが、なぜそこを取り上げるのかが、ふり切れすぎてわからないのだ。

 たとえば最新の3月号のタイトルは「犬のシリ見て我がフリ直せ」。

 犬のシリ見て?

 中をめくると「かわいさの理由を改めて探る」という特集に「お尻の穴まで愛(いと)おしい」とサブキャッチがついている。もうその時点でだいぶ理解不能だ。最初の写真はお尻側から見た柴犬で、肛門(こうもん)がどーんと見えている。

 んんん、犬好きの人は肛門も眺めるのだろうか。わからない。全然わからないよ。『平成犬バカ編集部』によれば、かつて日本犬の肛門の写真を並べた特集もあったという。

 ほかにも、犬のにおいに関する特集「くんくん嗅ぐのだっ!」の読者調査では、最初の質問が「愛犬の部位の、特にどこがいいにおい?」だった。細かい。細かすぎやしないか。飼い主はいちいち部位ごとに、においを嗅いでいるのだろうか。全体ににおえば、どこでもいいのではないか。

 と、まあ個人的にはツッコミどころがいろいろあったわけだけれど、つまりそれだけ柴犬への愛が深いということだろう。好きならなんでも話題にしたいものである。

 カラー写真が多く載っていて、それがほぼ全部柴犬なので、どこからどこまでが何の記事なのかこんがらがってくる。でも、読者はきっとそんなこと気にしちゃいない。とにかくひたすら柴犬のことが書いてあるのだから全部読めばいいのだ。投稿写真もどっさり載っていて、むしろ幸せに浸れる雑誌にちがいない。

 どんなジャンルでも趣味の雑誌はたいてい好きな編集者が作っているのだと思う。ただ、好きであってもアイデアや思い切りがなければ面白くならない。その点で「Shi-Ba」はチャレンジしている。『平成犬バカ編集部』には、今よりもはるかに弾けまくっていた時代のことも書かれていて、SNSで炎上したこともあるらしい。自分が編集者なら、むしろこんな編集部で働きたいと思ったのである。=朝日新聞2020年3月4日掲載