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ブックデザイナー・佐藤亜沙美さんを魅了した「デザインを超えた」5冊

【関連記事】本の細胞から血、肉、体を設計する ブックデザイナー・佐藤亜沙美さんの「苦しんでいる人に届く本を」作る仕事

1. 悪趣味百科(ジェーン・スターン、 マイケル・スターン、新潮社)

 世界中の悪趣味なものをとにかく集めた本です。ダサいものやゾッとするものを集めて言語化しています。

 祖父江さんが「デザイン」を使って悪趣味なことをやり尽くして、グッときたのを思い出します。視覚的に嫌だなぁと思う図像を追求していて。まずカバーの豹柄が凄く気持ち悪いですし、本を開くと幼虫みたいなものが整列していたり、毛を紛らわせたトレーシングペーパーが入っていたり。本文は「う」「ん」「こ」の文字がすべて太字になっていて「すごいノイズ!」(笑)。原著者は気付いてるのだろうか、と。

 「デザインはこんなに自由でいいんだ」「ここまで干渉していいんだ」と驚きました。本の構造を知り尽くした上で、遊びを尽くしている本です。

2. 平野甲賀「装丁」術・好きな本のかたち(シリーズ日常術2)(平野甲賀、晶文社)

 ブックデザイナーの平野甲賀さんが、亡くなった小野二郎さんの著作集のブックデザインをする過程を書いています。編集者とのやりとりなどが描かれている。データ送付のできる今と違って、ゲラや見本を見せるために実際に会わないといけません。一冊に時間をかけていてストーリーが込められています。

 平野さんは切り文字を使うんですが、ハサミで一度ジョキジョキ切ると、それ以上は絶対直さないことが信念だったようです。人は安心を求めるので、デザインを整えていってしまう。でも不安定なままを形にすることで、鮮度や生命力が出てくるんです。

 平野さんが若い時にレイアウトをした雑誌「ワンダーランド」は「粋」の際たるものです。空間のとり方や文字の詰め方が本当にかっこいい。隅から隅まで熱量とわんぱく感がある。資本主義的な商売っ気じゃなくて、文化として本があるべきだという姿勢があって、かっこいいなと思います。

3. 『an・an 』創刊号1970年3月20日号

 『an・an 』の初期はめちゃくちゃ可愛いんですよ。レイアウトも書体の使い方も今は見られない大胆さで、とても自由な印象です。読者の海外への憧れを形にして文化として紹介するような構成でした。

 私たちが複雑な要素をデザインをする時は、何も考えないと誌面に要素を埋めていって、メリハリのないバランスの取れたレイアウトにしてしまう。でも目が休まる空間や動線がないと、誌面に生命力が生まれません。コズフィッシュでは「植物をよく見るといい」と教わりました。植物がニョキニョキと伸びている自然の美しさです。

 『an・an 』は現代の整えていく効率的なデザインではなくて、うねうねと渦巻いている植物のようなレイアウトになっている。見ていると勇気をもらって、自分も大胆なレイアウトでいこうと思いますね。

4. 『絵草紙うろつき夜太』(柴田錬三郎、横尾忠則、集英社)

 柴田錬三郎さんの小説で、横尾忠則さんがデザインをした本です。週刊プレイボーイの連載で、柴田さんの文章に横尾さんが絵をつけるやり方をしていました。最初は映画のポスターみたいな絵から始まり、その後どんどん自由になり、あらゆる遊びが込められています。たとえば、見出しが巨大であるとか、絵の中に文章を組み込んでいく大胆さ。あらゆる本への抗い、反骨精神の塊です。暴力的なまでに自由ですね。やりたい放題なので見てる方がドキドキしますが(笑)。

 おそらく著者と対等な立場でデザインをされていて、常に拮抗している。普段デザインを担当するとき、文章を邪魔しないようにとか、作家の意図をデザインで引っ張りすぎないようにとか、気をつけるのですが、この作品には全然そういう遠慮がない(笑)。私もいつかデザインを超えたものをやってみたいと思いますね。

5. 『粟津潔デザイン図絵』(粟津潔、田畑書店)

 粟津さんは横尾さんの影響を受けている印象もありながら、ご自身の圧倒的なデザインを確立していて、時代的な背景もありますが、誌面から漂う唯一無二の色っぽさを感じます。

 寺山修司さんのお仕事をよくやられていたこともあって、文学的な美しさ、文字への愛情も強く感じます。広告的なメソッド通りでない美しい誌面構成がいつみても新鮮です。余白の作り方とか文字の詰め方のバランスが本当に美しい。

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