『早川一光の「こんなはずじゃなかった」』書評 京都・西陣の町医者が伝える「医の心」
評者: 保阪正康
/ 朝⽇新聞掲載:2020年04月04日
早川一光の「こんなはずじゃなかった」 わらじ医者からの最期のメッセージ
著者:早川 一光
出版社:ミネルヴァ書房
ジャンル:健康・家庭医学
ISBN: 9784623087860
発売⽇: 2020/02/13
サイズ: 19cm/253p
早川一光の「こんなはずじゃなかった」 わらじ医者からの最期のメッセージ [著]早川さくら
三十年余前、京都・西陣の町医者、早川一光(かずてる)に話を聞いたことがある。延命医療や病院死に批判的で、論旨明快、人情家であった。彼は多発性骨髄腫で2018年、94歳で在宅死した。
本書の前半は早川が地元紙に連載したコラム、後半はその死後、娘(著者)が綴った思い出である。前半は西陣での医療の実態、自らが患者から学び、いかに医師として成長したかを語る。どんな時も往診に出かける。家族とともに死を看取る。「医の心」があった時代。それが医療、看護、介護が点数化され、上からの押し付けとなった。「こんなんが地域医療のわけがない」。住民と地域が作る医療は現代も必要だとの訴えは、遺言ではないか。地域医療の祖・若月俊一への敬愛は一生を貫いていた。
早川は患者になって、病気と老いを受け入れるのに2年かかった。後半は、患者としての内側が紹介される。町をくまなく歩いた「わらじ医者」の、その生と死に敬意を表したい。