「ある制度を導入した企業は利益率が高い」といったニュースを見たとき、注意深い読者は、「偶然じゃないの?」と疑問に思うこともあろう。
その疑問に答えるために、しばしば用いられてきたのが有意性検定だ。大学で統計学を学んだことがあるビジネスパーソンは、ニュースの基となった調査結果に「統計的に有意」と示されていれば、その説は信頼できるもの、と判断することがあるだろう。
だが、もしその制度導入による利益率上昇が0・01%に留(とど)まるなら、導入の是非の判断材料としては弱い。「統計的に有意」はあくまで効果がゼロではないことを示すにすぎず、著者はこれのみに依存することに警鐘を鳴らす。
著者が推奨するベイズ統計学を用いれば、例えば利益率1%の上昇など十分な意義のある効果が得られるおおよその確率を示せる。こうした指標は、調査を行う研究者と調査結果を利用するビジネスパーソンの橋渡しに有用だ。
もっとも、著者も指摘するようにデータの「いいとこ取り」をした調査結果は統計手法によらず信頼できない。本書を基に統計手法の有用性と限界を学び直し、適切に利用することが「統計学を救う」ことになるだろう。=朝日新聞2020年4月18日掲載