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「プラスチック・フリー生活 今すぐできる小さな革命」 論拠は明確「改善策はコレ!」

 ドイツのデパートで買い物をすると、商品をそのまま渡され「はい、次!」とレジ係は早くも次の客の相手を始める。なので私はパンツを「生で」バッグに詰める。これが、レジ袋完全廃止世界のリアル情景だ。

 近年、日本社会でも注目度が高まってきたプラスチック汚染対策。気になる人も多いだろうこのテーマに、「ガチで考えるなら問題はコレ、そして改善策はコレ!」とストロングスタイルで意見するのが本書だ。
 読んでみて驚くのが、各種生活ツールの「快適さ」が、悉(ことごと)く廃プラ汚染拡大に直結している点。そのため、「全部でなくてもいい。やれる範囲でやりましょう」と言われても、逃げ場のなさに愕然(がくぜん)とせずにいられない。

 文体やアプローチは所謂(いわゆる)「意識高い&リア充」系な香りに満ちており、それが生理的に苦手な読者にはNGだろうが、主張の論拠は明確で、多角的な思考材料となる良書といえる。

 原著は北米の読者をターゲットとしており、日本の読者に馴染(なじ)みのない商品名やブランド名が頻出するのを、訳注で丁寧に日本の事物に当てはめ、また日本の現状と問題点を適切にコラムで補完した翻訳者の力量の素晴らしさも特筆しておきたい。

 「収支」面を気にするお国柄のドイツでの、廃プラ汚染問題議論での焦点は、例えば「プラスチックフリーを実現した場合の環境負荷を総合的に考えた場合、それは自然にとってプラスと言えるか否か?」というものだ。原発を廃止すれば、化石燃料発電による環境負荷が大きくて……というのと似た問題。

 この手の話は、環境破壊を推進する悪の大資本VS.草の根的な反権威的正義、的なイメージで語られがちだが、実際にはたぶん「大資本のビジネスモデルをいかに環境維持・保護へ誘導して成り立たせるか」という観点抜きでは大きく前進しないだろう。我々消費者の行動変容により、知的ムーヴの方向性が今後どう動くかに注目したい。=朝日新聞2020年6月6日掲載

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 服部雄一郎訳、NHK出版・2200円=7刷1万8千部。2019年5月刊行。「環境問題への関心の高まりが後押しになった」と担当者。若者や子育て世代の女性に支持された。