とにかくめちゃくちゃかっこいい! 黎明(れいめい)期からテレビのタイトル文字を手掛けてきた篠原榮太さんの作品集だが、タイトルだけでありながら、テレビを見ていた人々の胸騒ぎそのものを取り出したような一冊だ。
テレビを誰もが見ていた時代だ。ドラマのことで常に盛り上がった時代。視聴者の期待こそが栄養で、視聴率の要だったテレビでのタイトルデザインは、より「らしさ」を強調し、より期待を膨らませるものだった。しかし単純にベタなわけではなく、「期待通りなのに鮮度がある」という姿なのだ。「そうそうそういう番組だよ、あなたが期待してるような番組」と散々期待を煽(あお)っておいて、「でもね、どんなに想像したってね、やっぱ見てみなきゃわかりませんよ!」と、最後にきっぱり伝えてくるような、そんな字。人は、本当は「見たいもの」を見たいのではないのかもしれない。そのことをテレビはよく知っていたのではないか。期待が裏切られることを心待ちにしている、視聴者の胸騒ぎがぎゅっと形になったような、そんなタイトルがここにたくさん詰まっている。=朝日新聞2020年6月6日掲載