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アントニイ・バージェス「時計じかけのオレンジ」 頭のネジが吹っ飛んだ 白水社・藤波健さん

 学生下宿の近所の名画座で、スタンリー・キューブリック監督の映画「時計じかけのオレンジ」を観(み)た。激烈で耽美(たんび)的な映像に目を奪われ、荘厳な古典風の電子音楽とベートーベンに酔い痴(し)れた。すぐさま、アントニイ・バージェスの原作小説を読んだ。

 舞台は近未来の監視社会、15歳のならず者アレックスの「超暴力」的な体験が、「おれ」の一人称で物語られる。奇態な造語、野卑な俗語に満ちた波乱の展開に、頭のネジが吹っ飛んだ。アレックスは逮捕され、善良な少年に矯正されていく。最終章が加えられた「完全版」を40代になって再読した。当然ながら、違う後味があった……。

 15歳で出会ったパンクロックが、私の心の師だ。「アナーキー」や「ファシスト」という歌詞の意味を調べた。DIY精神、少数派や弱者の叫び、反戦平和の主張に共鳴した。何よりも、生きる姿勢(アティテュード)を学んだ。アレックスはパンクスの心の友(ドルーグ)だ。不敵な面構えが今も私の胸の奥で疼(うず)く。「雨に唄(うた)えば」を口遊(ずさ)む。不都合な真実が見開いた目に突き刺さる。パンクス・ノット・デッド。

 サリンジャーの小説『ライ麦畑でつかまえて』の出版社に就職した。そして、「超暴力」小説『血みどろ臓物ハイスクール』(キャシー・アッカー著、渡辺佐智江訳)、「ゼーバルト・コレクション」(全7巻、鈴木仁子個人訳)、現在の「エクス・リブリス」シリーズの第一弾『ジーザス・サン』(デニス・ジョンソン著、柴田元幸訳)に繋(つな)がる。ハラショー!=朝日新聞2020年6月10日掲載