1. HOME
  2. コラム
  3. レアジョブ、グッジョブ!
  4. 「メイクドクター」で知る化粧療法士 傷やアザに悩む「心」にメイク

「メイクドクター」で知る化粧療法士 傷やアザに悩む「心」にメイク

文:佐藤直子

 顔についてしまった傷や薬の副作用などによるアザ、生まれつきの傷などをメイクでカバーすることで心のケアする「化粧療法士」という職業を知っていますか? 『メイクドクター』(風間宏子、双葉社)の主人公・加賀見燿子は、ファッション誌を中心に活躍するカリスマメイクアップアーティスト。ところがある事件をきっかけに、化粧心療士として生きていくことを選びます。

 そんな彼女のもとには、膠原病による赤黒い湿疹をマスクとストールで隠す女性、顔にひどい火傷を負い高校生活を楽しめない女子高生、交通事故でできた傷が気持ち悪いからと婚約破棄された同級生、生まれつきのシミを隠さず強気で生きている女性など、体と心に悩みを持った様々な依頼者がやってきます。

 彼女たちは街に出れば不気味がられたり、目をそらされたり。また家族や友人、恋人など親しい人からの必要以上の哀れみや気遣いにも、一喜一憂する日々。中には傷を気持ち悪がられ、外回りや接客の仕事を外されるなど、目に見える形で差別を感じている女性も多くいます。

 加賀見は彼女たちの心の悲鳴を逃すまいと、全力でぶつかっていきます。しかし、「あなたになんかわからない」「傷が治るわけではない、一時のまやかしではないか」とメイクを拒否され、なかなか心を開いてもらえません。そんなとき、火傷を負って事故か自殺とも取れぬ形で亡くなった娘の話をし、「傷があっても生きている」と命の尊さを語りかけます。目立つ傷はその人の人生を左右しかねません。「傷をなくすことはできないけど、傷のなかったころのあなたに戻すことはできる。どう生きるかはすべてあなたが選べる」と勇気づけ、明るい未来のために加賀見は今日も「命のメイク」をします。

 傷を隠すのに活躍するのは、⒑㎛という薄さのフィルムテープです。皮膚の段差を目立ちにくくし、汗や水にも強く紫外線も防ぐという優れもの。傷の上に張り、その上からファンデーションやパウダーを乗せて、まわりの肌と違和感がないよう仕上げていきます。

 色の調整も健康的な肌に見せる大切なポイント。黄、オークル、ベージュ、オレンジなどのファンデーションを混ぜ、色の原理を利用しそれぞれの肌色に近い色に仕立てていきます。色を塗り重ねていくため厚塗りになりがちですが、スポンジでしっかりと押さえ肌がきれいに見えるよう整えます。

 傷ではなく目に視線が行くように、強めのアイメイクを行うなど加賀見メイクは傷を隠すだけはありません。年配の人へは、目元をくっきりと見せ肌に艶を出す、一方で女子高生には透明感あるメイクを意識するなど顔全体のバランスを考え、その人の持つ自然の美しさを引き出すのが特徴です。彼女のメイクを受けた女性が鏡越しの自分の顔に驚き笑顔になる時、心の傷も癒やされているのかもしれません。

「メイクドクター」加賀見燿子の傷を隠すテクニック

  •  ⒑㎛という極薄のフィルムシートで皮膚の段差を目立たなくする。汗にも強く紫外線も防ぐ優れもの
  • メイクをする前のマッサージがきれいなメイクを作る
  • 肌荒れのひどい部分には無添加のオイルをなじませメイクを始めるのがポイント
  • 色の塗り重ねのテクニックで、黒いあざなどを目立たなくする
  • 目元や口元は皮膚が薄いため、厚塗り効果はマイナス効果につながる

化粧療法士(化粧心療)とは?

 漫画では「化粧心療士」とされていますが、実際には臨床化粧療法士®という名前の資格があります。傷やアザなど外見の悩みを持つ人へ、化粧療法で体と心のケアを行う専門家で、医療従事者以外でも受験できます。

 受験する人は、自身に肌トラブルを抱えている人や傷の悩みを抱えている人、身近に介護者がいて、介助以外で喜んでもらいたいと考えている人など様々です。化粧技術や成分、皮膚理論のほか、心理学、美容や福祉に関する法律や制度、高齢者と投薬患者へのメイクの違いなどを学び、さらに専門的になると実践も行います。資格取得者は医療・福祉・介護・美容・理容など様々な現場で活躍しています。