「天才の考え方」書評 新旧名棋士が語る 理論と直感
ISBN: 9784120052972
発売⽇: 2020/04/21
サイズ: 20cm/219p
天才の考え方 藤井聡太とは何者か? [著]加藤一二三、渡辺明
将棋界の二人の天才が天才を語る。まあ自分のことを語ればそのまま天才論になる。天才は天才にしか興味がない。だから天才なのである。天才は常に「何者か?」と問われる。生まれつきの非凡さ、努力のレベルを超え、神に愛された人ということになろうか。
僕の世代で大山康晴、升田幸三、加藤一二三の名を知らない者はないが、将棋が今日のような社会的関心事に拡大したのは、羽生善治の出現が大きい。イチローのように羽生は将棋界のスーパーヒーローである。そんな彼と一度市中の人混みで同行したことがある。彼は身長もあって目立つ存在にもかかわらず誰も彼の存在に気づかない。オーラを殺した自然体だ。自我を滅却させ自己を超えた無の状態に僕は彼の中に真の天才を見た。
さて、本書の対話者加藤一二三は自ら命名の如く「直感精読」の人で、直感を勝負哲学とする。物事を複雑に考えない、常に単純(シンプル)に考え、終わったこともひねくり回さないところはそのまま彼の人生観につながり、大山康晴十五世名人に「大天才」と言わしめた。芸術家肌の棋士である。
一方、渡辺明は対戦を控え、事前研究に徹し、環境や時間、行動予定のチェック、理にかなわないことは避ける。このような性格によって、今の時代の理詰めに従った現代将棋の適性と一体化し、変化の切り替えがうまいところはスタイルを変えない加藤と対照的だ。
羽生の後に台頭してきた藤井聡太はデジタル世代の天才。理論と直感の複合タイプで、まだ未知数だと先輩棋士は言う。しかし、アナログの羽生世代はデジタル世代にはまだ脅威的存在であるらしい。藤井は羽生との対決を「楽しんで指したい」と言ったことに、加藤、渡辺の二人は驚いている。口では簡単だが、修羅場をくぐった加藤、渡辺でさえ、到達し得ない心境らしい。勝負の世界はそんな生やさしいものではないというのが二人の結論。
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かとう・ひふみ 1940年生まれ。勝利数歴代3位▽わたなべ・あきら 1984年生まれ。棋王、王将、棋聖の三冠。