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「人類と病」書評 国際協力の挫折検証し未来探る

評者: 宇野重規 / 朝⽇新聞掲載:2020年06月20日
人類と病 国際政治から見る感染症と健康格差 (中公新書) 著者:詫摩 佳代 出版社:中央公論新社 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784121025906
発売⽇: 2020/04/21
サイズ: 18cm/238p

ペスト、エイズ、新型コロナウイルスなどの感染症は次々と襲いかかる。その一方、生活習慣病や医療格差などの問題も深刻だ。国際保健にまつわる問題を洗い出し、これからも続く人類と…

人類と病 [著]詫摩佳代

 新型コロナウイルス危機は、あらためて国際的な協力の重要性を浮き彫りにした。仮に一国で感染拡大を封じ込めたとしても、世界の別の場所で再流行が起きれば、影響はやがて及ぶ。感染症に国境はなく、世界は連帯せざるをえない――はずである。
 が、実際はそうでない。国際協力の重要な機関であるWHO(世界保健機関)に対し、米国はその姿勢を「中国寄り」として資金拠出の停止や脱退をちらつかせている。全人類の健康という最も普遍的な理念に基づく活動においてすら、国際政治の思惑が介在していることを我々は思い知らされる。
 しかし、パンデミック(感染の世界的大流行)に対する国際協力に懐疑的な人ほど、この本を読んで欲しい。本書はペストやコレラなどの感染症に対し、人類がどのように向き合ってきたかを国際政治の視点から検証したものである。そこで描かれるのが、国家間の利害や思惑による挫折や失敗の歴史である。人類は天然痘こそ「根絶」したが、マラリアやチフスを始め、いまだに克服できずにいる感染症も多い。そこにエイズ以来、新たな感染症の出現が相次いでいるが、世界の国々の足並みはなかなか揃わない。
 それでも著者は、大国の資金や技術が大きな意味を持つ以上、国際保健協力に政治の影響が及ぶことはやむをえないとする。にもかかわらず、人々の健康を確保する取り組みは続けられてきたのであり、そうだとすれば、多様な政治的影響力をそのために利用していくしか道はない。WHOに至る国際官僚の努力や、米ソの協力がうまく機能したポリオの例などを検証しつつ、本書はそう示唆する。
 決して理想だけではない。が、多くの利害や思惑を介してなお、協力は続いてきたのだ。ならば、コロナ危機もまた、その新たな一歩とならないか。安易な期待は禁物だが、長い視座で問題を考えるよう我々に促す一冊である。
    ◇
たくま・かよ 1981年生まれ。東京都立大教授。著書に『国際政治のなかの国際保健事業』(安田佳代名)。