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三浦瑠麗「私の考え」書評 力強い優しさ 違う意見を尊重

評者: 坂井豊貴 / 朝⽇新聞掲載:2020年06月27日
私の考え (新潮新書) 著者:三浦瑠麗 出版社:新潮社 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784106108563
発売⽇: 2020/04/17
サイズ: 18cm/238p

人間、迷ったら本音を言うしかない…。「怖がっているだけでは戦争はわからない」「政治家が浮気してもいい」「裏切られることの恐怖」など、政治について、孤独について、人生につい…

私の考え [著]三浦瑠麗

 「迷ったら本音を言うしかない」。そう言って著者は語りはじめる。政治や社会、日常をめぐる考えを語る。著者は論壇で活躍する政治学者で、とくに戦争と平和の研究に通じている。
 自衛隊は、憲法を素直に読めば違憲だろう。日本人がそれを放っておいたのは「究極的には軍的なるものに対する関心のなさ」ゆえだと指摘する。無関心には実害がある。軍事法廷や士気に関わる労働条件など重要な問題が見えなくなる。
 不倫への非難がエスカレートしている社会風潮には批判的だ。人は他者に貞操を強いられはしないし、余所(よそ)の夫婦を断罪する必要はない。非難は自分の不安の反映なのだろう。だが他者を断罪しても、自分が誰かにとって大切な存在になるわけではない。
 著者はどのような物事も、複数の人間の視点からとらえる。自衛隊でいうと、無関心な市民と、自衛隊員。不倫でいうと、不倫する人と、非難する人。だから著者の文章は明晰で力強いのだが、一面的な断罪はどこにもない。甘くはないが、優しいのである。
 だからこの本を読むと、優しさとは何なのかを考えてしまう。おそらくそれは、公正さに近いものなのだろう。自分と違う意見に対しても、その意味や背景を知ろうとすること。人間に高い理想を押し付けないこと。そうした姿勢は、誰をも贔屓(ひいき)しないので、ときに孤立を招きもする。「迷ったら本音を言うしかない」とは、孤立への逡巡があろうとも、最後には「私の考え」をきちんと言うということなのだ。
 夫や娘が登場するエッセーも、この本には多くある。なかでも「月くんと惑星くん」はすてきだ。著者がとても落ち込んで、「ぼろ雑巾のようになっていた」日の夜に、娘にせがまれ創作した童話である。まるで絵本のように、月くんと惑星くんとの交流の絵が浮かんでくる。これにかぎらず本書の情景描写の美しさは際立っている。
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みうら・るり 1980年生まれ。国際政治学者、シンクタンク「山猫総合研究所」代表。『21世紀の戦争と平和』など。