近所の川べりを散歩していると、カメラに大きなレンズを装着して、じっと川面を見つめている人によく出会う。何を撮っているのかと見れば、鳥である。
川には、カモやアオサギのほか、カワウやカワセミなどさまざまな鳥の姿が見え、林の中からはキジやウグイスの鳴き声も聞こえてくるし、神社の大木の枝にはフクロウらしき影があり、いつも何本ものレンズが下から狙っている。
たまたま緑濃い町に住んでいるからだろうか、私の周囲ではバードウォッチングが盛んである。
鳥は警戒心が強い。動きも素早く、その姿をじっくり観察するのは難しい。さらには犬猫のようにじかに触れ合うこともできないとなると、私などは、近づきたいのに近づけないもどかしさが募り、さじを投げてしまいそうになるが、雑誌「BIRDER(バーダー)」を読んで、鳥を追うことの魅力が少し理解できたような気がした。
簡単に近づけないために、その姿をうまくカメラに収めることができたときの感動が大きいのだ。ピントも構図も完全な形で撮るのは相当難しく、だからこそ、美しい毛並みや、あどけない表情までをも見事に捉えられたときには、つれなかった鳥たちが俄然(がぜん)魅力的に見えてくる。まるでツンデレ。その落差に萌(も)える。
「BIRDER」には、かわいい鳥たちの写真がいっぱいだ。毎号冒頭に載っているスズメは手で包み込みたいほどの愛らしさだし、6月号に載っていた、京都鴨川のゴイサギを魚眼レンズで捉えた写真では、その体の艶(つや)やかさに驚いた。鳥って近くで見るとこんなにきれいなのか。
誌面のレイアウトは落ち着いていて読みやすい。最新7月号の『高山・亜高山帯の鳥』特集では、鳥ごとの見つけるコツが紹介されているかたわらで、『アカアシカツオドリの羽色型と年齢の識別』なんていう専門的な話や、精緻(せいち)なイラストによる鳥の舌の形態一覧などが掲載されているのだが、そんなマニアックすぎる記事も自然に読まされてしまった。
私がとくに気になったのは『Field Report』というイラスト記事。たった2ページの中にフィールド情報がぎっしり詰めこまれている。文字まで手書きで、取材を含め相当時間がかかっているのではないだろうか。
これらの記事からは、バードウォッチングが、かなり成熟した趣味の世界であることが伝わってくる。私もカメラを持って出かけてみようかな。=朝日新聞2020年7月1日掲載