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「ネズミのおしえ」篠原かをりさんインタビュー 恋愛、嫉妬、うつ…悩み解決のヒントはネズミにあり!?

文:石井広子、写真:徳間書店提供

人間に対する愛着が強いところにハマった

――篠原さんはこれまでに累計で40匹以上のネズミを飼育し、在籍している大学院での研究テーマも「妊娠期マウスが摂食するタンパク質の量や質の違いが次世代に与える影響の検討」だそうですね。篠原さんがネズミに興味をもつようになったきっかけを教えてください。

 ネズミとの最初の接触は、小さいころに動物園でハツカネズミを見たこと、そして5歳のときにハムスターを飼ったことでした。でも実は、これまでネズミに執着したことはなかったんです。大学に入ってから、実験でマウスやラットを扱うようになり、そこでいろんな知識を吸収するのとともに好きになっていった感じですね。特にラットと呼ばれるドブネズミが好きなんです。ネズミ同士でも遊んでいるけれど、人間に対して好奇心も強いし、甘える気持ちも強いんです。想像以上に人間に対する愛着が強いところにハマりました。

 飼育しているネズミには名前をそれぞれ付けていますが、個々の名前が何かっていうことはおそらくネズミたち同士は認識していないと思います。でも、私が名前を呼ぶと振り向いたり、通り過ぎたりすると遊んでもらえるんじゃないかと反応するんです(笑)。喧嘩する声はよく聞こえますね。ネズミが笑う声は人間の耳では聞こえませんが、実験で確認できたとき、より愛おしいと思えました。

――本書はネズミの妬み嫉み、ダイエット、代謝、恋愛など人間にも通じるテーマを取り上げていて、たとえネズミに興味がない人でも親しみやすい内容だと思いました。

 ネズミに関するいろいろな研究から判明したテーマですが、自分が面白い、興味があると思ったページから読んでほしいと思います。自分にフィットするところを見つけて「へぇ、ネズミもそうなんだ~」と気軽に感じてほしいですね。

――個人的には、ネズミにも人間と同じように他者の幸せを見て妬む感情もあるというのは驚きでした。

 他のネズミが喜んでいたら、嬉しさを感じるネズミがいるいっぽう、他者の喜びを見て、嫌に感じてしまうネズミもいる。そうした妬み、嫉みといった感情は人間も持っていて、「逆共感」と言われています。逆共感は、ネズミの時代から進化してさらに人間にも残しているということは何らかの意味がある。決して必要のない感情ではなく、生き残るために有利だから残る感情だとも言えます。人間もその感情を押し込めず、用法用量を守って、そのバランスをとるのが大事だと思います。

ネズミにも浮気しやすい個体がいる

――恋愛については「質より量」というシンプルな面もありつつ、つがいになるとパートナーが大好きになるネズミもいるそうですね。

 最近、世間では浮気や不倫が話題になっていますね。同じような例としてネズミの世界ではプレーリーハタネズミがいます。一夫一妻制という意味では人間と同じ動物。でも浮気しやすいネズミもいて、それには特有の遺伝子が見つかっています。つまり最初から浮気する個体は存在するということ。そこから、少なくとも人間でも言えるのは、自分が浮気されても自分には全く原因がないし、たまたまそういう相手に出会ってしまったということだけです。たとえ妻がどんなに美人であろうとも、そこに相関はありません。

 ネズミの中にも優しいのもいれば、浮気するものもいる。人間の心で考えてしまうと、社交性が高い方がいいとか、こうじゃなくてはという理想の姿があるけれど、仕方ない部分ってたくさんあるんですよね。そういう差は全部、ある程度自己責任なので、逃れてもいいのかなと思います。いろんなことに思い悩まなくていいということをネズミから学んでもらえたらと思います。

――ネズミは孤独になるとうつになる、ストレス耐性にも個体差があるというのも人間に似ていますね。

 孤独は、かなり大きいストレスの上位だと言われています。ネズミを高いところに置いたり、一匹だけ飼育したりするとうつ症状が出ると言われています。社交性が高いネズミほど、集団から引き離されたときに受けるダメージが強い。でも群れに復帰すれば徐々に回復していく。人も同じですね。コロナ禍で外出自粛だったとき、私は社交性が低い個体なので、全然ダメージがなかったんです。でも社交性が高い人は、人と関わらないことでストレスを感じ、ダメージが大きかったはずです。

 複数のネズミに同じストレスを与えて感じやすいか、感じにくいかを実験すると、ネズミも個体によってストレスや痛みの感じ方は異なります。また自分の選択を後悔したり、負けてばかりいると自信を失ってしまったりするネズミもいる。人間もストレス耐性が弱い人、強い人がいる。周りに比べたら大したことないことで辛くなってもいいし、隠す必要もありません。自分の気持ちを素直に受け止めることが大事だと思います。

体や心には個体差があることを知って

――篠原さん自身が、ネズミから教わったことで役立ったこと、救われたことはどんなことですか?

 ネズミも人間も意外と変わらないんだなというのが、いちばんに思うことです。人間の生きる姿と似ているところは多い。ネズミにも共感性があり、仲間を絶対に助けるという性質があります。そして一匹の中にもこれ以上は助けないという限界値が存在するんです。共感して寄り添ってあげるのもいれば、自分だけを大事にして他者には振り向かないネズミもいる。ネズミでも個性があるのなら、人間の私は仕方ないと思えたんです。

 私は、自分自身がひねくれていて、他人への負の感情を溜めてしまうことが多く、悩んでいました。でも人間も動物の一部で、かつネズミに個性があるのと同様に、私は他人に負の感情を持ちやすいだけなんだと思えたら、悩まなくなりました。体の大きさの個体差はよく言われるけれど、嫌悪や恐怖心といった「心」にも、生存戦略のために個体差がある。それはネズミから学べたことです。

――テレビ番組「世界ふしぎ発見!」のミステリーハンターとしてもご活躍されていますが、大変なことや、やりがい、今後挑戦したいことを教えてください。

 海外ロケのために外出する数週間、ネズミの世話を誰かにお願いしなければいけないのが大きな心配事ですね。ネズミが高齢なので不安です。行き先は南米が多いですが、個人ではなかなか行きにくい秘境ばかりです。視聴者の皆さんが行きにくい場所だからこそ、その魅力を存分に伝えていくことに挑戦する価値はあると思います。

 私がテレビに出演して声に出して話すなんて、これまで生きてきた人生の中で想定しなかったことですが、情報を発信するという意味では文字媒体とそんなに変わらないということがわかりました。テレビであれ文字媒体であれ、何かを伝えるということは、受け手によって良い方向にも悪い方向にもなり得る。誰も傷つけないことは難しい。だからよく考えて抜いて、自分がいいと思うことをどんどん発信していけたらと思います。