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人気アナ吉田尚記さんが語る「あなたの不安を解消する方法」 行動によってしか不安は消えない

文:篠原諄也 写真は吉田尚記さん提供(田中嘉人さん撮影)

就職が決まってから不安に襲われた

――本書は「14歳向けにコミュニケーションの本を書いてほしい」(「14歳の世渡り術」シリーズ)というオファーから生まれたそうですね。不安をテーマにしたのはなぜでしょう?

 「14歳にとって一番大変なことは何か」を考えると、不安だろうなと思ったんです。僕自身、元々めちゃめちゃ不安が大きいタイプだったんですよ。でも今はほぼ不安がないんです。これは他の人にとっても、価値のあるメンタルチェンジだなと思って。それを「気持ちを明るく!」みたいな精神論抜きで書こうと思いました。

――不安の正体とは何だと思いますか?

 不安とは何かーー。気持ちの状態なんですけど、不安になるかどうかはものの見方で変わります。先日『心配学』という著作のある島崎敢先生と対談させていただきました。(雑誌「コマーシャル・フォト」6月号)先生の話によると、飛行機が落ちる確率より、空港から家までの車の移動で死ぬ確率のほうがずっと高いそうです。つまり、人間の不安な気持ちは、全然科学的じゃない。

 不安には根拠がないんです。しかも不安な気持ちの人が、危機的な状況を打破できるかというと、むしろ不安がない人が打破してくれるわけです。不安というネガティブ感情は、ほとんどあっても意味がないんじゃないかなと思うんです。

――吉田さんは大学生時代に就職が決まった後がとても不安だったそうですね。

 当時、アナウンサーは内定が出るのが早く、大学3年生のうちに就職が決まりました。なんとか受かったものの、自分に実力があるとは思えないわけですよ。それまでの人生で、受験勉強で結果が出た以上のことは何もなかった。でも将来のために何をしたらいいのか分からない。「どうしよう」と暗くなるばかりで、人生最大の鬱の時期でした。

 大学4年の時は単位をほとんど取っていたので、1年間やることがありませんでした。毎日TSUTAYAに行って、棚の前で「どの映画を見れば、一番立派なアナウンサーになれるんだろう」と考えていました。1本でも借りて見たら糧になるんですけど、決断ができなくて、棚の前で考えているだけで1日が終わるんです。

――不安を抱えていた大学生時代のご自身に向けて、もしアドバイスできるなら何と言いますか?

 「いくら不安だと言っても、誰も甘やかしてくれないのは分かってるでしょう。とりあえず手を動かしてみたら?」と言いたいです。大学生の時に仕事の現場に行かせてもらってもよかったんです。アナウンサーになるのが不安なら、「仕事上の技術について具体的に何に困りそうなの?」と考えて、例えば「尺が合わないこと」が悩みだとするなら、「こういうテクニックがあってね」と話をするだろうと思います。考えるだけでは不安は消えないですから。行動によってしか不安は消えないんです。

「こいつにはかなわないな」と思った同級生

――不安を解消するためには「自信」がキーワードだとしていました。そして「自信」には2種類あるとのことでした。

 不安の反対である「自信」には「プライド」と「セルフエスティーム」の2種類があります。「プライド」はある社会システムの中で「自分が周囲と比べて高い位置にいるんだ」という気持ちです。例えば「試験で上位にランクしているから大丈夫」「クラスのイケてるグループに所属しているから大丈夫」といった考え方です。でも社会システムに所属しなくなったら、この「自信」はなくなっちゃうんですよ。だからあまり本質的じゃないんです。

 それに対して「セルフエスティーム」は「よく分からないけど、自分は大丈夫」という感じです。大丈夫である理由はない。でも理由のない行動をしていても「大丈夫」と思えた時に、初めて芽生える感情なんです。例えば「海に飛び込んで死ななかった」みたいな。

 僕はずっと不安が強いタイプだったんですけど、高校時代に「こいつにはかなわないな」と思った同級生がいました。彼はめちゃくちゃ朝早くから学校の近くの公園に来ているんです。でも学校には遅刻ギリギリの時間に来る。ある時、僕が遅刻ギリギリで学校に向かっている時、彼がまだ公園にいました。「何やってんの?」と聞いたら「あのアヒルが魚を獲るまで見てる」と言う。これを聞いた時にちょっと衝撃を受けて。「遅刻するかもしれないじゃん?」「でも魚獲るまで見るって、自分で決めたから」と。これはかなわないなと思いました。あれは「セルフエスティーム」が高い奴にしかできない。

――「純粋に何かを好き」という感情と近いのでしょうか?

 めちゃくちゃ近いですね。「俺は何百本も映画を見ているから大丈夫!」ではダメ。「映画を見るのが楽しくてしょうがない!」という人にはかなわないんですよ。

 「プライド」はシステムが崩れてしまったり、自分よりもっと上にくる人がいたら、その自信はなくなってしまいます。でも「セルフエスティーム」は競争、勝ち負けの話じゃない。「まあなんとかなるでしょ。」という感覚ですね。

 ただ「セルフエスティーム」は何にもしないと生まれません。もし何か不安があるなら、気になっていることは何でもやってみることが大事です。ちょっと調べてみて、動いてみる。やってみて結果が出なくても、それはそれでいい。終わった時に、誰にも誉められなかったとしても、ちょっと誇らしくなっている。それが「セルフエスティーム」ですね。

コミュニケーションは自分のためのものじゃない

――今年はコロナウイルスに対する不安が大きく広がりました。コロナの不安はどう解消すればいいと思いますか?

 まず、交通事故より可能性が低いですからね。そして、自分でできる対策をすべてやったら、もうあとはやりようがない。そこから先は考えてもしょうがないんですよね。逆にこの環境下でできることは何かを考えてみる。例えば、私だったら、この期間中に、アニメ、漫画、映画に多く触れることができるなぁ、なんて思います。コロナで外出ができなかったとしても、できることはめちゃめちゃありますよね。

――吉田さんは人とのコミュニケーションができるようになったことで、不安が解消されたそうですね。本書ではコミュニケーションのコツが書かれていました。「最も必要なのは質問力」「あいさつをしよう。時間を守ろう」「大きな声を出せていれば、なんか大丈夫」などありました。「ちょっと合わないな」と思う人がいたら、どのようにコミュニケーションするといいでしょうか? 

 「なんで合わないのか」を考えると面白いですよ。本当に考え方が合わないことを把握してから、「なんでそう考えるんですか?」と聞くのは全然ありです。そもそも会話は自分のためではなく、相手のためのものです。自分が気持ちよくなるためだとすると、嫌な人ってすごく困る。でも、自分が気持ちよくなろうとは初めから思ってないんですよ。

 コミュニケーションを「議論して相手よりも自分が優れていることを証明するゲーム」だと思っている人がいます。そうじゃない。その場にいる人全員が協力して、最後に全員勝ちか全員負けかの協力ゲームなんですよ。

――それはラジオのお仕事とも通ずることですか?

 完全にラジオの番組もそうです。時間制限の中でもちろん気まずくなったらダメですし、(リスナーにとって)何か価値がなければいけないので、少し高いハードルがあるかもしれません。数分間のゲストトークで「凄く笑えた!」「初めて聞く話が出てきた!」などプラスアルファが必要なので。でも、基本は相手を言い負かすのではなく、相手に楽しく過ごしてもらう、という目標はかわりません。

 僕は自分が喋ることによって、人に喜んでほしいと思っています。「ラジオパーソナリティである俺かっこいい」なんて1ミリも思っていない。「TO BE(〜になりたい)」ではなく「TO DO(〜をしたい)」なんです。偶然放送を聞いてくれている人たちに「こんな面白い話があるんですけどいかがでしょう」と毎日届けたいと思っています。

★吉田尚記さんのnote で『あなたの不安を解消する方法がここに書いてあります。』を全文公開しています(2020年7月1日現在)」