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エッセイ本が好調のBiSH・モモコグミカンパニーさん 「書く」ことに込める想いとは

文:井上良太、写真:有村蓮

BiSHとしての景色を忘れたくない

——「BiSHの中で一番の本好き」といわれるモモコさんが本を好きになったきっかけは何だったんでしょう?

 元々は学校の授業でも国語が一番嫌いで、読むのがとにかく苦手でした。けど、中学2年生ぐらいの時に読んだ森絵都(もりえと)さんの『カラフル』は、スラスラ止まらなくて。自殺をしようとした男の子が自分を生き直すという物語にすごく刺激を受けて、世界の見え方が好転したんですね。それから「本っていいな」と思うようになりました。

——好きなジャンルや作家さんは、そういった自分に刺激を与えてくれるものが多いんでしょうか?

 そうですね。特に村上春樹さんがすごい好きで『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』や『ノルウェイの森』、短編集なら『神の子どもたちはみな踊る』とか。村上春樹さんの作品には、私たちが生きてる現実と切り離されすぎない世界が描かれていることが多くて。それに登場人物の頭の中、迷いや悩みがたくさん描かれていますよね。私がいろんなことを考え込んじゃう派なので、そういう作品を読むとスッキリするんです。ほかにも『コンビニ人間』の村田沙耶香さんとか、生きるうえでの参考に、本を読んでいるフシがあります。仕事が忙しすぎてキツい時に読んで「この主人公も頑張ってるから自分も頑張ろう!」って勇気づけられることもあるし(笑)。

取材協力:2-3Cafe(東京都渋谷区猿楽町24-1 ROOB2 1F、03-3464-8023)

——2018年に発行されたモモコさんのエッセイ『目を合わせるということ』は、第14版重版までかかる好評ぶり。デビューからの3年間の出来事や当時の思いがとてもていねいに綴られていて、初のエッセイとは思えない良作でした。

 すごく光栄ですけど、書くのはそんなに得意じゃないんですよ……。でも、小学生の頃から日記はずっと書いてますね。私にとって書くことは、忘れたくない人間関係や思い出を残しておくための作業。人によってはそれが写真かもしれません。『目を合わせるということ』を書いたのは、BiSHに入って見てきたいろんな景色が「大切で貴重なこと」なのに、書かなければ忘れてしまうと思ったから。自分以外の誰かに伝えたかったのもありますね。

——「大切で貴重なこと」って何でしょう?

 BiSHに入って、私はすごくおもしろい世界にいさせてもらってます。BiSHにいなければ絶対に巡り会えない人とも出会えたし、考え方がすごく変わったし、私にとっては留学する以上のことを学んでいると思うんですね。私の場合「どうして女の子がアイドルになりたいのか?」を知りたいがためにオーディションを受けて、たまたまBiSHに入ることになったような軽い動機だったから、なおさら学びや衝撃が多くて(笑)。そんな貴重な経験をちゃんと言葉で残して、みんなと共有したかったんです。

——もちろんいろんな経験をしてきたと思いますが、モモコさん的にどんなところが成長したと感じているのか気になります。

 「自分がダメだ」と気づけたことが自分にとっては大きいです。それまでは、自分をそう評価することがあんまりなくて。運動はできなかったけど、やらなきゃいいだけだと思っていたし、勉強だけ頑張っておけばいいやって。でも、今考えるとそれって点数でしかなくて、生きるうえでの人間力みたいなものは、 BiSHに入って出会った人、見てきたものを通して知り、自分が「何もできなかったんだな」って痛感して。そして気づけたからこそ、やるべきことを探せた。一番成長できた部分だと思います。

エッセイは人と人がさらけ出せる場所

——6月下旬現在は、新型コロナによる外出自粛要請が緩和されていますが、自粛中はどんなことをして過ごしていました?

 めちゃくちゃプライベートだと、コーヒーが好きなので、豆を買って挽くことから始めてみたり。あとは、クラウドファンディングでエッセイを少しずつ配信してるので、それを書き溜めたりしてました。

——2020年6月からスタートした、CAMPFIREのプロジェクト「BiSHモモコグミカンパニーのエッセイ本完成までを一緒に楽しみながらお届けしたい」ですね。目標金額が200万円に対して、支援総額は現時点(7月15日)で4000万円超え、支援者は3000人を超えました。とんでもないですね。

 自分でもびっくりしてます。初めて書いた『目を合わせるということ』の時は、私と編集者さんの1対1で作り上げていく作業で、それはそれで楽しかったんです。でも2冊目を作るにあたって、過程を通してみんなとワクワク感を共有できたらいいなと思ったのが、今回のプロジェクトに繋がりました。あと、ファンレターとかでみなさんがいろんな声をくれるのに、私からそれに答える機会があまりない気がしていて。ファンの人と、1人の人間としてちゃんと「会話」がしたい想いが以前からあったんです。

 プロジェクトでは、私が記事を投稿するごとに支援者の方からメッセージが私に送れるようになっていて、いろんな声が聞けます。そこにいるのは、ファンじゃなくて本を一緒に作ってくれる仲間。ファンという仮面を外した人間が、生身の声を聞かせてくれるんです。だから私も、投稿する記事ではモモコグミカンパニーという仮面を外して、人間的な部分をさらけ出すようにしています。そういうのって一緒に作ってる感じがするし、みなさんがどんなことを考えて生きているかが見えておもしろいですね。

——モモコさんは人間関係をとても大切にする人なんですね。友だちが多そう。

 いや……逆にすごく少ないかもしれないです(笑)。誰とでも仲良くなれるタイプではあるんですけど、長時間一緒にいると本当に疲れちゃう。BiSHに入る前は、そうやって家でグッタリすることが多かったです。実際は親友が1人いればいいなってタイプなのかも。上辺の関係が苦手で、話すならぶつかり合いたいんです。その方が疲れないし生きてる感じがする。だから今やってるプロジェクトはすごく楽しいです。

——プロジェクトですでに、コロナ禍で感じた「愛すべき無駄時間」がテーマの「エッセイ#1」 が発表されています。今後はどんな内容を書いていこうと考えているんでしょう。

 前回の『目を合わせるということ』は、私から見た「BiSHの説明書」みたいな内容になっていて、たくさんの人にBiSHを知ってもらうことが一番の目的でした。今回のプロジェクトで書きたいのは前作よりも深いところにあるテーマ。例えば「モモコグミカンパニーの中にいる私はこんなことを考えています」といったことを書ければと思ってます。

執筆活動も作詞も、すべてはBiSHのために

——BiSHの楽曲の中にはメンバーが作詞をしているものも多く、特にモモコさんの詞は、ファンだけでなく渡辺淳之介さん(BiSHのプロデューサー)からも一目置かれていますよね。歌詞の採用数がメンバー最多なのがそれを証明しているかと。

 それは単純にみんなの倍以上書いてるからじゃないですかね(笑)。BiSHでは、メンバー全員にデモ音源が送られて、それを聴いてメンバーが書いた詞を、渡辺さんたちがどれでいくか検討します。それで、例えばデモ音源が10曲届いて「3曲を選んで作詞をしてください」という時でも、私は全部の詞を書いたりしていたから。私はそれぐらい作詞が好きで、今でも書けることは夢みたいでうれしいです。

——詞はどうやって考えているんですか? 突然降ってくるとか。

 やっぱり曲ありきなので、曲を聴いて湧き出たイメージを掴まえます。そのうえで、生きてきた中で感じたことや、立ち上がれなくなった自分を救ってくれた人のことなど、曲を聴いて感じた生の感情を大切にしてますね。ゆっくりしたテンポの「JAM」の時は優しい言葉が出てきたし、反対に「SHARR」のような攻撃的な曲の場合は、自分の中の怒りが出てくるし。頭の中の言葉が、曲によって引っ張り出されるような感じ。あと意識しているのは、カッコつけた歌詞よりも、カッコ悪くても伝わる歌詞を書くこと。「ちゃんと伝える」ことを大切にしているのは、本を書く時も同じです。

——作詞を担当した中でお気に入りの楽曲は何でしょう?

 「リズム」が一番好きですね。BiSHの曲のほとんどは、サウンドプロデューサーの松隈ケンタさんが作ってくれているんですが、「リズム」の場合はメンバーのアイナ(アイナ・ジ・エンド)が作曲。それに「詞を付けて」って私が頼まれて生まれた楽曲なんです。メンバーが作った曲に歌詞を付けるのも新鮮だったし、アイナとはBiSHがスタートしてから5年以上の付き合いだった中で、ふだん話してるのとはまた違う、楽曲を通して深いところから繋がれた気がした。だから「リズム」は私にとって特別な楽曲なんです。

——結果「リズム」も「JAM」もBiSHの代表的な楽曲になっていますよね。モモコさんにとって「作詞」や「執筆」はどんな位置付けか、今後どういう活動をしていきたいのかも気になりますね。

 私は事あるごとに「生きづらい」と感じてしまう人間なので、そんな私が書いた曲や本で、同じように感じている人の救いになればという気持ちがあります。ただ、私の幹にあるのはやっぱりグループとしてのBiSHの活動で、大切なのはライブだったり。だから作詞も執筆も好きですが、それら含めてすべてが、グループとしてのBiSHのためになればうれしいですね。大変なこともたくさんあったけど、何よりもBiSHが好きなんです。