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「痛いところから見えるもの」書評 「痛くない人」に理解促す

評者: 望月京 / 朝⽇新聞掲載:2025年12月13日
痛いところから見えるもの 著者:頭木 弘樹 出版社:文藝春秋 ジャンル:文芸作品

ISBN: 9784163920177
発売⽇: 2025/09/11
サイズ: 13.3×18.9cm/320p

「痛いところから見えるもの」 [著]頭木弘樹

 経験してみないとわからないことはいろいろあるが、「痛み」はとりわけ言語化が難しい。痛いのはつらいが、どんな痛みなのか、経験者以外には真に理解されない孤独感もまたつらい。
 難病になり、「絶望的な痛みと共に生きてきた」著者は、「痛い人と痛くない人」をつなぐ、「あってもいいのに、まだない」本の執筆を思いついた。自らの激痛体験談に元同室の入院患者が涙を流して理解を示したことに感涙し、気が晴れた経験などが根底にある。
 痛みに関する著者の来歴や考察の合間を縫うように、古今東西の医療者、歌手、詩人、小説家、哲学者、落語家、人権運動家など、多種多様な人々の言説がふんだんに引用される。痛みを多角的に捉え視野を広げることで、「痛い人」への理解や、孤独と苦痛の超越が促される。
 かくて「痛いところから」差別、創造性、暴力など様々なものがみえてくる。痛い時に私自身はそれほど思考できるか疑問だが、それでも生きていかねばならぬから本が要るとの著者の信念には実感を伴う重みがある。