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マックス・ウェーバー没後100年、実像に迫る 二つの評伝刊行

マックス・ウェーバー(1864~1920)

 『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』で著名なドイツの思想家、マックス・ウェーバー。没後100年を迎えた今年、実像に迫る評伝の新書が2冊、刊行された。対照的な手法でその横顔が描かれている。

 ウェーバーは、西欧列強が最も勢いがあった19世紀後半に生まれた。なぜ近代資本主義が西洋で生まれたのか。宗教に注目してそのメカニズムを説明した、いわゆる『プロ倫』や、政治家に必要な資質を語った講演録『職業としての政治』などで知られる。

 政治学者の野口雅弘・成蹊大教授による『マックス・ウェーバー』(中公新書)は、著作の読まれ方の多様さに着目した。とりわけ戦後日本では、ウェーバーは特別視されてきた。丸山真男ら戦後民主主義者が西洋近代を学ぶ「教科書」として読んできたからだという。

 野口さんは「ウェーバーを読む敷居を下げたかった」と執筆の動機を説明する。同書では、政治哲学者ハンナ・アーレントによる批判や、1970年代以降独自の正義論を打ち出したジョン・ロールズの議論との関係などにも言及。比較を通じて、政治分析で官僚制機構と暴力の役割を重視したウェーバーの特徴を際立たせたという。

 さらに新しい文脈が生まれているとも指摘する。当時はロシア革命が起き、社会主義を求める機運が高まる時代の転換点でもあった。「いまは自由民主主義への信頼が揺らぎ、権威主義を求める風潮が広がっている。国家とは、暴力とは何かを、改めてウェーバーのように考えてみるのには意味がある」
 一方、政治思想史家の今野元・愛知県立大教授の『マックス・ヴェーバー』(岩波新書)は、ナショナリストとしての側面にスポットを当てた。伝記、私的な書簡なども丹念に読み込み、その姿をできる限り伝えることを心がけた。ウェーバーとは、「近代の光と影を体現する人物だ」と語る。

 「光」とは、産業や学問などで西洋を世界の中心に変えていった力だ。主体性を持つ個人が自分の決定によって新しい領域を切り開いていく。強くて自由な個人を生み出した。だが、こうした個人によって発展した近代ヨーロッパは戦争や人種差別などの「影」も生み出した。

 「確かに自由を重んじた人ではあったが、決して平和主義者ではなかった」。国家の権益拡張にこだわるわけではないが、その名誉をかけて他の列強と対抗していく。「同時代人と比較しても強いナショナリストだった」

 だがこうした側面は戦後日本では「あまり語られなかった」という。同書では、彼の死後、ドイツで台頭するファシズムとの関係も議論される。

 「まず何者だったかを知る。現代的な意義はそれぞれの読者が考えればいいこと。没後100年でようやくそういう時代になったのだと思う」(高久潤)=朝日新聞2020年7月15日掲載