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「消えたママ友」作者・野原広子さんインタビュー 幸せに見えたママ友は、なぜ失踪したのか

文:澤田聡子 ©野原広子/KADOKAWA

自身の経験が作品づくりのヒントに

——これまでの作品でも主婦を主人公に、人間関係にまつわる悩みを描き出されてきました。今回は「幸せそうに見えたママ友の失踪」という衝撃的なテーマですね。

ママ友・有紀ちゃんの失踪で残された3人がぎくしゃくした雰囲気に ©野原広子/KADOKAWA

 前作の『離婚してもいいですか?翔子の場合』(KADOKAWA)では夫との関係がテーマだったのですが、今回のメインテーマは「ママ友」。実は、描き始めたころはまだ結婚していたのですが、連載の途中で離婚しまして。引っ越しなどでバタバタしていたこともあり、すぐに周囲に連絡できなかったんですね。ある時期、私自身がはからずも有紀ちゃんと同じ「消えた」状態になってしまった……ということがありました。

 落ち着いてからようやく連絡を取ってみると、私がいなくなってから仲良くしていた友人たちの間に微妙な空気が生まれてしまった、と聞いて。人間関係ってほんのちょっとしたことでバランスが崩れてしまうんだな、という経験もヒントとなりました。

——過去の作品では主人公の内面をモノローグで丁寧に描写されてきましたが、本作では冒頭すぐに有紀ちゃんは失踪してしまう。クライマックスまで、彼女が「消えた」理由について、ママ友3人はもちろん、読者もまったく分からないわけです。

 「コミックエッセイ」の形式で描いているので、1回の連載が4コマ×6本。これで単行本の3ページ分になります。丁寧にエピソードを積み重ねられる分、物語が動き出すまでにすごく時間がかかるんですよ。これまでは、我慢に我慢を重ねて、最後に怒り爆発!という主人公が多かったのですが、「爆発」までの助走があまりにも長かった(笑)。前作の反省を踏まえ、今回は事件を冒頭に持ってきて、そこから過去を振り返っていく構成にしました。起承転結の「転」から物語が始まるイメージです。

冒頭で「消えてしまった」有紀ちゃん。物語が進むにつれ、真実が明らかになる ©野原広子/KADOKAWA

 コミックエッセイのいいところは「読んでいて疲れない」こと。子どもが小さかったころ、マンガを読むのすらしんどくなっていた時期があったんです。変則的なコマ割りや複雑なストーリーに集中することができなくなってしまって。そんなときでも、なぜか『クレヨンしんちゃん』(双葉社)は楽しく読めた記憶があるんですよね。「読みやすくて面白い!」と、シンプルなコマ割りと絵柄の良さに開眼しました。

 ほかに、やまだみつこさんの『お母さん、だいじょうぶ?』(大和書房)というコミックエッセイも好きでした。素朴な線で訥々と描かれているのに、ものすごくお母さんの心情が伝わってくる。『消えたママ友』も「主婦の失踪」という劇的なテーマではあるのですが、4コマ×6本というフォーマットで淡々と表現しているので、読者の方も疲れることなく読んでいただけるんじゃないかなと思います。

主婦が感じる日常の「モヤモヤ」に寄り添う

——『消えたママ友』というタイトルをはじめ、不穏でミステリアスな雰囲気、ハラハラする展開に、映画化された『ゴーン・ガール』(小学館)を思い出しました。影響を受けた本や映画はありますか?

 映画は昔から「パルプ・フィクション」が好きで、時系列がバラバラの構成や展開に何かしら影響を受けた部分があるかもしれません。ドラマでは、オダギリ・ジョーさん主演の「熱海の捜査官」(2010年)が面白くて観ていましたが、これは女子高生失踪事件がテーマのミステリーでしたね。小説だと湊かなえさんの『告白』や『少女』(いずれも双葉社)。あっと驚く結末や物語が醸し出す雰囲気に、初めて読んだときは圧倒されたのを覚えています。

 「レタスクラブ」で、一連の「モヤモヤシリーズ」を連載するようになってから、ミステリー小説など人間の心の裏側をのぞくような作品をよく読んだり鑑賞したりするようになりました。

——「モヤモヤシリーズ」! 確かに主婦の日常的な「モヤモヤ」に寄り添った作品が多いですね。

 「レタスクラブ」の前編集長との打ち合わせ中に生まれたシリーズ名です。やっぱり、夫婦間でもママ友間でも小さな「モヤモヤ」ってありますよね。些細なことだけど、溜まっていくと最終的に取り返しがつかないくらい「バーン!」と爆発してしまうことがある。このシリーズを描き始めてから、自分も含めて皆が感じている「モヤモヤ」に自覚的になったと思います。

「悪意の裏側」を想像することでキャラが立体的に

——失踪した有紀ちゃんもそうですが、仲良しママ友グループの春ちゃん、ヨリちゃん、友ちゃんの3人が非常にリアル。どのキャラクターも世間に見せている表の顔と隠された内面が描かれています。

 キャラクターの造形については、今まで触れてきた人間関係が土台となっている部分はありますね。ずっと昔に体験して心に残っている出来事や発言を引っ張り出してきて描いています。物語の中心となる有紀ちゃんは、バリバリ働くワーママ。これまでの作品では専業主婦やパートで働くお母さんが主人公でしたが、彼女は商社で働き、同居の義母が子育てと家事をフォローしているという設定です。

 ヒントになったのは以前、友人から聞いた話。彼女は義理の母に子どもを預けてフルタイムで働いていたのですが、「子どもが保育園で仲良くしているお友だちや先生の名前が分からない。自分よりも義母に懐いている気がして母親として自信がない……」ととても落ち込んでいて。そういうつらさや悲しさもあるんだな、と心の片すみにずっと引っかかっていました。

 また、「意地悪な発言の裏では、その人自身が追い詰められていることもある」と考えるようになったのは、保育園の先生のひと言がきっかけでした。「子どもがお友だちに意地悪したり、荒れたりするようなときは、何か必ず原因があるんですよ」という言葉が忘れられなくて。それからは子どもだけでなく、大人にも「このイライラや悪意の裏側には、何か別の理由が隠れているのかな」と、想像するようになりました。

——消えた有紀ちゃんと友人3人が再会するシーンが、「夜の公園」というのもドラマティックでした。昼と夜の対比がそのまま、ママ友たちの表と裏を表しているようで……。

 宮川彬良さんの「真夜中の動物園」を聴いていたら、「夜の公園」というイメージが頭にパッと浮かんだんです。昼の公園でしか会ったことがないママたちが隠していた本音をぶつけ合う……その舞台を夜の公園にすると面白いかも、とひらめきました。

「夜の公園」で再会するママ友たちのクライマックスシーン ©野原広子/KADOKAWA

——このシーンでは有紀ちゃんによる告白と共に、他の3人も本音をようやく言い合えたというカタルシスがありました。

 『ママ友がこわい 子どもが同学年という小さな絶望』(KADOKAWA)で、ちょっと恐ろしく描きすぎちゃったところがありまして。「ママ友=こわい」というイメージを読者に刷り込んでしまい、申し訳なかったなと反省したんです。私自身も些細なことでママ友とケンカ別れしてしまった経験がありますが、一方で子どもが大きくなってもずっと続いている友人関係だってある。今回は、そうしたママたちの友情や救いとなるような部分も描きたいと思いました。

——連載中、「レタスクラブ」読者の反響はいかがでしたか。

  初めて「レタスクラブ」で連載した『離婚してもいいですか?』(KADOKAWA)もそうだったんですが、最初は水を打ったようにシーン(笑)。でも徐々に「毎月、楽しみにしています!」という声が届くようになり、ホッと胸を撫で下ろしました。連載初期は「こんなダークなものを幸せな奥さま方が読む『レタスクラブ』で描いていいんだろうか……」と、胃が痛くなったこともあります。

 今回、単行本化するにあたって、作品の後半83ページ分を描き下ろしました。「レタスクラブ」で連載を読んでくださっていた読者も「消えた有紀ちゃん」が一体どうなったのか、ぜひ物語の結末を確かめていただければと思います。