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「日本武道の武術性とは何か」書評 攻撃・防御の「人間学」なお途上

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2020年08月29日
日本武道の武術性とは何か サピエンスと生き抜く力 著者:志々田 文明 出版社:青弓社 ジャンル:スポーツ

ISBN: 9784787234728
発売⽇: 2020/06/29
サイズ: 19cm/323p

武道に内在する戦いに勝ち自分を守る技術としての「武術性」に焦点を当て、武術性といまどう向き合うかを、剣道、柔道などを事例に検証。武道・武術の思想を人間/サピエンスの「生き…

日本武道の武術性とは何か [編著]志々田文明、大保木輝雄

 江戸時代は、いわゆる戦のない時代であったが、この間武士階級は武術を人格陶冶(とうや)の手段に変えたのではないか。その歴史的経緯や論理を確認することは武術の本質に迫る意味を持つ。
 本書は10人の論者がこの本質を論じる。ここでいう「武術性」とは「攻撃・防御をともなう戦いの場でその武芸・武技・武術が役に立つこと」を指す。人命を賭して戦う場、スポーツの場の両面を持つのだが、論者の一人はそれを「攻撃防御の技術」として実用的(勝つということ)でなければならないと説く。
 古代から近世にかけての武士は、「武」という芸を持つ社会的存在との見方もある。中世鎌倉以降は宮本武蔵のいう、兵法は「人にすぐるゝ」態度を本旨として稽古を積めば、おのずから主君に尽くすことになる、との教えが出てくる。近代になって武術は武道に変わる。剣術の山岡鉄舟や西久保弘道、柔術の嘉納治五郎などが術を道に変えた先駆者だ。実際に本書では、嘉納の説く柔道が詳しく説明されている。
 嘉納は柔道の目的を、攻撃防御の練習で精神・肉体を鍛錬し、「己を完成し、世を補益する」とした。そのために講道館を設立、柔道の形を作り、技の統一、国際社会への広がりに貢献した。嘉納は槍術(そうじゅつ)、剣術などは今後は必要とされていない、柔道こそが最も適切な武道だと断じている。勝負法の技として「投(なげ)、当(あて)、固(かため)」の三種があり、投技を重視して武術性を体系化したとの論も語られる。つまり武道を殺傷から解放するという意味なのであろう。
 ある研究者が、大正時代には武道学が冷遇されていた事実を挙げ、戦後になって体育史・スポーツ史の中で出発し、やがて歴史研究に至ったと見る。しかし本書の論者たちの共通の願いは、まさに〈武道は人間学の総合学問〉と理解すべきだと訴えているように思える。そのためにまだ多くの論点を詰めていくべきだと本書は教えている。
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ししだ・ふみあき 1949年生まれ。早稲田大名誉教授▽おおぼき・てるお 1949年生まれ。埼玉大名誉教授。