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R・ドーキンス「さらば神よ」他1冊 反進化論を問いただす信念と勇気 朝日新聞書評から

評者: 須藤靖 / 朝⽇新聞掲載:2020年09月05日
さらば、神よ 科学こそが道を作る 著者:リチャード・ドーキンス 出版社:早川書房 ジャンル:自然科学・科学史

ISBN: 9784152099570
発売⽇: 2020/07/16
サイズ: 20cm/327p

ダーウィン『種の起源』を漫画で読む 著者:チャールズ・ダーウィン 出版社:いそっぷ社 ジャンル:生命科学・生物学

ISBN: 9784900963894
発売⽇: 2020/06/02
サイズ: 21cm/191p

さらば神よ 科学こそが道を作る [著]リチャード・ドーキンス/ダーウィン『種の起源』を漫画で読む [文]チャールズ・ダーウィン、[編・文]マイケル・ケラー、[絵]ニコル・レージャー・フラー

 リチャード・ドーキンスは『利己的な遺伝子』『神は妄想である』などの世界的ベストセラーで知られる進化生物学者だ。特に、自然界は人智を超えた「何者か」によって創造されたとするインテリジェント・デザイン説を痛切に批判し続けている。本書は、高校生から大学生程度の若者を念頭に、時にユーモアを交えながら、宗教の非科学性を一刀両断にする。
 第1部「さらば、神よ」では、聖書にちりばめられた非論理性記述に厳しくツッコムことで、それらを無批判に受け入れる危険性を指摘する。聖書を原理主義的に信じる人がほとんどいない日本では、むしろ大人気(おとなげ)ない印象すら与えかねないほどの舌鋒(ぜっぽう)の鋭さだ。
 一方でそれは、「神」という名のもとに非科学的な主張を信じ込んで・込まされている(無垢な)人々が世界中に存在するという現状の裏返しでもある。信教の自由は保障されるべきだ。しかし、だからといって、現代社会を支える科学を歪(ゆが)めたり否定したりする行為を容認してはならない。
 南太平洋のバヌアツ共和国タンナ島では、1974年に英国フィリップ王配(おうはい)が訪問して以来、彼を「神」として崇(あが)める信仰が誕生し、継承されている。この衝撃的な例は、宗教の基盤を鋭く問いかける。歴史的な偶然によって誕生した宗教の数々と、必然に裏打ちされた科学の体系の深さとは、歴然とした質的違いがあるのだ。
 かつては学校で進化論を教えることを禁止する法律すら存在し、今でも約4割の国民が進化論を信じていない米国の状況は、誤った宗教観から科学を守る重要性を示す。政治家や官僚に代表される日本人の平均的科学リテラシーの低下を考えると、決して対岸の火事ではない。とはいえ、科学のために誤った宗教観を正す行動を起こすには確固たる信念と勇気が必要だ。ドーキンスはその二つを兼ね備えた稀有(けう)な学者である。
 巻頭のカラー口絵で紹介される生物が見せる驚異的な姿の数々、特にオーストラリアのシロアリ塚とガウディの設計したバルセロナのサグラダファミリア教会が全くのうり二つに見える事実には唖然(あぜん)とさせられる。しかし、それらですら、科学が合理的に説明してくれることを示すのが、第2部「進化とその先」だ。この後半こそ、科学とりわけ進化論の擁護者である著者の面目躍如たる部分だ。
 ところで、この機会に進化論をもっと知りたいと思われたなら『ダーウィン「種の起源」を漫画で読む』をお薦めしたい。原著の章立てを忠実に再現しつつ、カラーイラストを駆使して解説する構成は、私のように生物学に詳しくない一般読者にぴったりのダーウィン進化論入門書である。
    ◇
Richard Dawkins 1941年生まれ。生物学者・作家。英国王立協会フェロー。著書に『神は妄想である』『利己的な遺伝子』『進化とは何か』など▽Charles Darwin 1809~82年。1859年に『種の起源』を出版。