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ヤマザキOKコンピュータさん「くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話」 お金に思いを乗せる投資術

文:小沼理 写真:ヤマザキOKコンピュータさん提供

本を作ることはお金が動くこと

――投資家としても活動しているヤマザキOKコンピュータ(以下、ヤマコン)さんですが、この本は具体的な投資のテクニックではなく、お金の仕組みや流れ、ヤマコンさんのお金への価値観について書かれています。

 お金って特別に信仰されていたり、汚いものとしてめちゃくちゃ嫌われていたりしますけど、僕にとってはあまり特別なものではないんです。いくら稼いだとか、どれだけ持っているかを競うのはどうでもいいし、かといって過剰にお金の話を避けるのも違う。今日や明日を楽しむために必要なぶんを稼いで大切に使っていけば、自分の人生にとって良いものになると思っています。

 この本に書いたのは、そうした自分から見えているお金のことです。僕は普段「サバイブ」というウェブメディアで、資産運用の考え方や技術について書いていますが、具体的なお金のテクニックは困っている人が読むことが多いから、無料でアクセスしやすいウェブに掲載する方が良い。投資は法律や商品の性質がちょこちょこ変わるから、本にするには向かないんです。でも、もっと大きなお金の価値観についてなら本にしても良いと思いました。

 僕の考え方が必ずしも正しいわけではないですが、読んだ人が「そういう見方をしている人もいるんだ」と気づいて、視点が増えたらいいなと思って書きました。

――タイトルも表紙も、いわゆる投資本とは一線を画していますね。どちらかというとカルチャー棚に置かれていそうな雰囲気です。

 タイトルにいきなり「くそ」って入ってますからね(笑)。この本のもとになったのは、長崎にある「すみれ舎」という障害者の介護施設で開かれた、本と同名のトークイベントです。すみれ舎は地域の文化を向上させようと頑張っているところで、その日僕が出たイベントも、ドイツのノイズミュージシャンを呼んだり、無料で酒・飯が飲み食いし放題だったり、挑戦的な取り組みをたくさんしていました。

 遠方に住んでいてイベントに参加できなかった人からは、「参加したかった!」という連絡をもらいました。その中に、耳が聞こえない人がいたことも本にしたいと思ったきっかけです。当日の録音データを送るのは簡単だけど、それでは届けられない人がいると改めて考えて、文章でちゃんと形にしてみようと思いました。

 本を作ることはお金が動くことでもあります。僕はいつも、社会を自分好みに変えていくには、お金の流れを意識しないといけないと考えているから、自分の好きな本屋や出版社にエネルギーやお金が少しでも流れていくようにしたい。そんな風に文章やデザインを作っていったら、結果的にこうしたポップな本になりました。

 読者からは「子どもに読ませたい」「定時制高校の図書館で働いているのですが、おすすめ本に選びました」というものから、「投資はごみくずがやるものだと思っていたけど見る目が変わりました!」みたいな過激なものまで(笑)、たくさん反響が届いていますね。

パンクと投資をつなげる「Do it yourself」

――そもそも、ヤマコンさんが投資をはじめたきっかけはなんだったのでしょう?

 20代後半まで実家で暮らしていて、パンクバンドをやりながら音楽スタジオやライブハウスでアルバイトをしていました。遊び場みたいなところで働いていたから遊ぶのにお金がかからなかったし、酒やタバコもやらないので、普通に生活しているとお金がけっこう貯まっていたんです。

 使う予定もないから定期預金をしてみようと銀行へ行ったら、投資信託を勧められて。こういう時に即決しない性格なので、一度家に帰って調べてみたんです。そうしたら、わりとゴミみたいな評判のものを勧められてて……。まあ、僕も当時ボロボロの格好で銀行に行ってたし、髪の毛も黄緑色だったし、赤ちゃんみたいな顔立ちだったし、侮られてもしょうがないところはあったんですけどね(笑)。それからしっかり調べて、自分で選んで買ったのが最初だったと思います。

――そこで「投資なんてやっぱりやめておこう」とはならなかったんですね。

 銀行にめちゃくちゃムカついたんで、そのまま預けておくのも癪じゃないですか(笑)。それがあったかもしれないですね。

 ただ、最初から投資を今みたいにとらえていたわけではないです。パンクロックの精神と相容れない気がして、あまり人にも言っていませんでした。

 変わりはじめたのは「サバイブ」をやるようになってから。投資の記事を書いたり、お金について考えたりする中で、今の考え方に近づいていきました。マルクスの『資本論』やアダム・スミスの『道徳感情論』、最近だと環境や社会に配慮した経営をしている会社に投資する「ESG投資」についてのものなど、本はたくさん読みましたね。

 そうして吸収したことと、自分の中にあったセンスや、パンクロックから学んだカルチャーが結びついて今の考え方があります。もちろん完成したものではないから、今後も変わっていくと思いますけどね。

――ヤマコンさんの中で、パンクロックと投資はどう結びついているのでしょう?

 パンクロックには様々な解釈があって、派手なのがパンクという人もいれば酒を飲んで暴れるのがパンクという人もいます。僕が思い描くパンクで重要なのは、「Do it yourself」と「Anyone can do it」、つまり「自分でやる」と「誰でもできる」です。

 投資を社会に対する投票ととらえて、お金に意思と責任を乗せて使えば、一市民の小さな資産でも無力なわけじゃない。投資がこうした活動を通じて社会のあり方を一つずつひっくり返していけるものだとすれば、それは「誰でも自分でやることができる」、僕にとってのパンクロックと一致するんです。

――コロナ禍で苦境に立たされた書店や飲食店、ライブハウスなどを支えるためのプロジェクトが多数立ち上がり、意思表示としてお金を使うことを意識した人は多いと思います。投資もこうした延長でとらえられるのですか?

 そうですね。たとえば「エフピコ」という食品トレーのメーカーがあって、この会社の障害者雇用率は2020年3月時点で13.3パーセント。法定雇用率の2.2パーセントを超えることすら難しい中で、ずば抜けた割合です。とはいえこの会社を応援したいと思った時、僕が食品トレーを大量に買うわけにはいかない。その時、株を買って投資する選択肢が出てきます。

貯金は「一番堅実」か?

――銀行に預金していると、銀行の投融資で使われるわけですからね。最近は方針転換が進んだとはいえ、日本の金融機関がクラスター爆弾の製造企業に融資していたことが問題になったこともありました。

 食べ物や洋服を買う時に環境や社会へ配慮したものを選ぶなど、丁寧にお金を使っている人でも、お金の持ち方まで意識していない人はけっこう多くて。批判するつもりはないけど、きっとその人にとって不本意なんじゃないかと思います。その意味では、丁寧にお金を持っていくことも提案したいと思っています。

――一方で、「投資はリスクが高そう」「貯金が一番堅実」といったイメージもあり、手を出しづらい印象があります。

 銀行預金には銀行預金の、投資には投資のリスクがあるんだと思います。投資は会社が倒産するかもしれないけど、銀行預金は物価の上昇には対応できません。それぞれの特徴を見極めながら、リスクを分散させてお金を持っておく方がいいんじゃないでしょうか。

 株の値動きを細かくチェックしてとにかく儲けることを目的にするのは大変だけど、投資自体は基本的な考え方さえ学べば、そんなに難しいものではないと思います。

明日死んでも、100年生きてもOKな生き方

――お金の使い方や持ち方を気にしすぎると、身動きが取れなくなることもあるのではないでしょうか。

 投資やお金の流れを意識して使うことは、生活に余裕がないとなかなか難しいです。僕は今、多少の余裕があるからこういうことを言っていられるけど、たとえば子どもがいたらそんな余裕はないかもしれません。反対に、「子どもを育てているからこそちゃんとお金を使いたい」と考えすぎて、気持ちの余裕まで失ってしまうこともあるかも。

 これは僕の考え方ですが、生きる目的ってお金を増やすことでも、徳を積むことでもないんですよね。アホっぽいかもしれないけど、今日、明日楽しいことがまずは大事。明日死んでも、100年生きてしまってもいいという生き方が理想なんです。

 いい未来のために今を犠牲にしてたら明日死ねないし、かといって今だけよければいいやと思って生きて、30年後にユーラシア大陸が砂漠だらけになっていても嫌。100年後も未来だけど、明日も未来だから。自分のお金が格差や環境汚染に加担しないように注意しながらも、楽しく生きていきたいと考えています。

――近い未来と遠い未来、どっちも楽しく暮らせるバランスを考えながら、自分でやり続けることが大切なんでしょうか。

 そうですね。ちょっとわかりにくいことを言うんですけど、本に書いたことは、あくまで僕の人生に当てはめた場合のことでしかないので、みんなが実際に投資をはじめなくてもいいと思っています。

 僕はお金の使い方や持ち方について考えることが多かったけど、人によってはそれは、時間や体の使い方かもしれない。たとえばスケーターで、死ぬまでスケボーで遊んでたいっていう人なら、人間関係や場所を維持するために自分に何ができるか考える。そんな風に、読んだ人が自分に当てはめて考えてほしいですね。