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武田綾乃さん「愛されなくても別に」インタビュー 「親」から逃れたい子どもたちの葛藤を描く

文:根津香菜子 写真:山田秀隆

親の要素に苦しむ3人の女性

――本作を書くにあたり、まず思い浮かんだのはどんなことでしたか?

 10代の頃、自分が何をどう感じ、考えて、世界がどう見えていたのかということは、年を取れば取るほど薄れていくし、その時の怒りを持ち続けることは難しいですよね。でも、作品としてそれを残しておけば、どの年代の人でもこの作品を読んだ時に自分が葛藤していた時の気持ちが思い出されるんじゃないかと思い、それを作品にしたいなと思いました。

――浪費家の母を抱え、生活費のために日々バイトに明け暮れる大学生、宮田陽彩(ひいろ)と、母親に売春を強要されていた江永雅。この2人を生み出した理由や背景を教えてください。

 最初から対比のキャラクターを作りたいと思っていました。厳密に言うと、宮田と江永、それに二人と同じ大学に通う木村の3人がセットになっていて、それぞれが違う親の要素で苦しんでいるという設定になっています。主人公の宮田は結構辛い境遇なんですけど、辛い境遇の人が別の辛い境遇の人を見た時に、絶対に優しくなれるわけではないと思うんです。だから主人公は「絶対正義」じゃないですし、この物語では、それぞれ色々な苦悩があっても、やっぱり分かち合えないところは分かち合えないんだからそれでいいんじゃないかということを伝えたかったのと、そこからさらにどう生きるのかは各々のことなので、自我の距離感みたいなものを描きたかったんです。

――宮田は香りや匂いに敏感ですが、そういう設定にしたのはなぜでしょうか。

 プロットの段階で「奨学金」というテーマがまずあったのですが、宮田陽彩というキャラクターのモデルはまだふわふわしていて「どうしよう」と悩んでいた時、急に「匂い」というものにインスピレーションが湧いたんです。これを言うとすごく過激に思われてしまうかもしれませんが、うずくまった女の子が必死に芳香剤を嗅いでいるシーンを描きたいと思ったんです。そのシーンのために逆算して色々設定を書き足したのですが、その時に「あ、これは本になるな」と確信できました。あのシーンで宮田陽彩という人間が掴めて、出来あがったと思います。

血縁だから家族というわけじゃない

――作中で私が特に共感したのが「私は、血が繋がっているだけの他人を親とは呼ばない。呼びたくない」という宮田の言葉でした。親に対してそういう気持ちを持つことは悪いことだと思っていたけど「そう思っているのは自分だけじゃないんだ」と、少しほっとしたと言いますか。

 どんなに親のことで苦しんで、傷つけられていたとしても、血が繋がっているという事実はどうしても断ち切れないことですよね。私は小さい頃から「血縁だから家族というわけじゃない説」を唱えているんです。親がなんで「親」なのかというと、子どもに手間をかけてくれているからで、逆に子どもも親に対して、子どもだからって親に何でも要求できるわけじゃないですし、家族って他人の集合体だと思っているので、そんな自分の価値観が強く出た作品になったなと思います。

――出来のいい弟と比較されるバイト仲間の堀口が宮田に色々話しかけてくることも、過干渉の母親から逃れるために、木村が怪しげな宗教主の「宇宙(コスモ)様」に盲信したのも、本当は親に言ってほしかった、してほしかったことの表れだったのかなと感じました。

 タイトルは『愛されなくても別に』なんですけど、主人公は親からある種愛されているし、主人公も親を愛しているので「愛しているけど、それでも決断する」っていうのが本作の一つの大きなテーマなんです。相手を好きだから嫌なところを見たくないし、知りたくない。それに、自分が置かれている現状があまり恵まれていないということを自分が知りたくないのは当然のことだと思いますが「愛されていることと害を与えてくることは同時に起こるから、別で考えた方がいいよ」という観点でこの話を描きたかったんです。

――本作で唯一の男性キャラ、堀口の立ち位置はどんなものでしょうか。

 この本を書く時に、辛い女の子の話だけに留めたくなかったんです。生きづらさが基本的なテーマではあるんですけど、3人が生きづらいのは分かりやすいのですが、堀口も相当生きづらさを感じている男なんです。堀口の意見って、結構過激だったり「どういうことなの?」と思ったりすることが多いんですけど、こういう世界の見方をしている人もいるということをちゃんと描き残しておこうと思っていました。彼の意見に対して共感する人もいるし「ないわ」と思う人もいると思うのですが、あまり配慮の行き届いていない意見をなかったことにしたらこの話の意味がないと思ったので、それも踏まえて男性の生きづらさみたいなものを堀口が代弁していると思うし、そのバランスは意識して描きました。

 堀口は読んだ人によって「意外と好き」って言う人と「本当に嫌い」って言う人に分かれていて、人によって捉え方が全然違うのが彼らしくて面白いところだなと思います。

「普通」の人生のレベルが下がっている

――作中では、宮田が「まともな人、まともな人生って何だろう」など、自問自答するシーンがよく出てきますが、それは読者への問いかけのようにも思いました。

 「普通」のレベルが、この何十年かで一気に下がっている気がしているんです。例えば、本作で描いている宮田の、バイトをたくさん入れたり、自分の学費を払ったりという生活を20代の人や学生が読んでも「まぁ、普通だな」と感じると思うのですが、もう少し上の世代の方だと「何でこの子はわざわざこんなことを好き好んでやっているんだ」と思う人もいると思うんですよ。今の若い子たちって、世の中がいう「普通」とか「まとも」というものに漠然と急かされて生きているんですけど、私はそんなもの本当はどこにもないという意識がすごく強いんです。みんなが思う「普通」って、結局はちょっと理想的みたいなもので、それぞれの本当の適正と、みんなが言っているから追い求めなきゃいけない漠然とした目標がごちゃ混ぜになる人生ってしんどいなと思ったので、そこは開き直ってほしいなという気持ちも込めました。

――タイトル「愛されなくても別に」の後に続く言葉があるとしたら、どんな言葉でしょうか。

 確か最初はもっと長文にしていたんですよ。人生において「愛されること」が必要条件ではないというメッセージ性を込めたタイトルにしたかったので「愛されなくても別に生きていける」という案もあったかな。でも結局それは邪魔だなと思って削ったんですけど「愛されなくてもいいじゃん」か「愛されなくても別に」で悩んだ気がします。

――「10代の自分の救出」が本作の裏テーマだそうですね。

 私は昔から「家族は他人の集まり」だとか「血の繋がりで家族とは思わない」ということを考えていたので、いつかそれを本にしたいと思っていました。

 よく道徳の授業とかで、家族を大事にすることとか「友達とは仲良くしましょう」、「ケンカはダメよ」ということを教えていて、それって正しいことだと思うし大事なことではあると思うけど、幼い頃に持っていないそれを強制されるのって多分すごく辛いし、それを言われたくない時期がみんなあると思うんです。「家族を大事にしなきゃいけないのか」とか「辛いときに人と距離を取るのは悪いことなのか」と思っている人たちに「こんな考え方もあるんだ」って思ってもらえたら、それが人生の支えになるんじゃないかという気持ちがあったし、10代の時の自分が読みたかった作品になったと思っています。

――読者の方からの反響で一番印象的だった事はありますか?

 みなさんがこの作品を読んで何を思うのかずっと不安で、ドキドキしながら発売日を迎えたのですが「すごく背中を押された気がした」とか「許された気がする」と言う方が多かったんです。そういった感想を見た時に、書くべき作品だったんだなという気がしました。

 私は100人いたらその内の1人の支えになれればいいなと思って書いたんですが、環境は違ってもみんな同じ葛藤を抱いていて、たくさんの方がこの作品に共感したと言ってくださるのはありがたかったですね。勇気を出して書いて良かったなと思います。

――書き上げるのに勇気が必要だった作品なんですね。

 はい、相当(笑)。今までは爽やかな青春ものが多かったので、自分の10代の頃の葛藤や価値観みたいなものをどこまで描いていいのかと悩みました。今までのファンの方に喜んでもらいたいという気持ちももちろんあるのですが、作家として色々な話を描きたいという思いもあって、そのバランスを模索しているところだったんです。なので、この作品は今までとは書き方も変えて、思い切って挑戦した作品でした。

 あとは、多くの方の感想が「共感なんだな」ということが意外でした。私だけが思っている事かと思っていたのですが、自分の感情を作品にするとみなさんも共感してくれるのが面白いなと思いましたね。みんな言わないだけで思っている事なんだ、みんなもそうなんだと思うだけで視野が広がるというか、生きやすくなることって多いんじゃないかなという気がしています。

しんどい気持ち、読書で軽くなれば

――吹奏楽部に全力で取り組む高校生たちを描いた「響け! ユーフォニアム」のような青春ものと、本作のような「黒小説」と呼ばれる作品の書き分けはどのようにされていらっしゃいますか?

 そこは明らかに分けていて、話の作り方がまず違いますね。本作の場合は、意図的に第三者の目線を削って描くことが多くて、主観をメインにしています。逆に「ユーフォニアム」のようなエンタメ小説になると、第三者を取り入れて「こういう時はこういうキャラを出して、こういうやりとりをして」という風に分けて書いています。

 それぞれに面白さがあるし、同じ作業をするよりも別の作業を入れたほうが飽きないんですよね。例えば『その日、朱音は空を飛んだ』というミステリー作品は、パズルを組み立てるような作り方をしたんですけど、それはそれですごく楽しくて。いつも作品を書くときに、どんなアプローチの仕方が出来るのかなって考えるのが好きなんです。自分でもそこを使い分けているから、色々な作品を描き続けられているのかなという気がしています。

――武田さんが作家を志したのはいつ頃からですか?

 小学生の時「ハリーポッター」がブームで、その頃から作家になりたいと思っていました。本格的に書き始めたのは綿矢りささんの影響が大きいです。小学校高学年の頃に綿矢さんが芥川賞を受賞されて、その時に「本って自分で書けるんだ!」みたいなカルチャーショックがあって、そこから少しずつ自分でも書くようになりました。その時書いていたのはファンタジー小説で、最初のプロローグで終わっているような短いものが多発していたんですけど、友達とかに見せていましたね。当時書いたものを今見ても、そこそこ文章は上手なんですけど、背伸びしているから息が続かなくて(笑)。「だから書き終わらなかったんだな」って見る度に思います。中学では部活が忙しくなったのであまり書かなくなったのですが、高校で文芸部に入って、また物語を書くようになりました。

――特に影響を受けた作家さんや作品を教えてください。

 綿矢りささんと辻村深月さんがずっと好きで、『蹴りたい背中』と『凍りのくじら』の2作品が一番大きな影響を受けたと思います。綿矢さんの書く文体は、キレイでいて、ちょっと毒があるところが好きですね。いつも私が勝手に例にしているのが「すごくキレイなチョコレート屋さんで売っている外箱」なんです。羽とかついている素敵なパッケージで、中もキレイなんだけど、箱を開けるまでもすごくキレイ、みたいな作品だなと思っていて(笑)。辻村さんは、話の構成や人間描写、キャラクター性もすごく好きで、高校生の頃は狂ったように読んでいました。今読んでも共感する部分も多いです。それから、普通の文章の中で突然グサっと刺してくるような、あの鋭い視点が好きです。

――最後に、本書を通して、親のことで悩んでいる人に何かメッセージがあれば教えてください。

 私は人を直接励ますのがすごく苦手なんですよ。例えば、初対面ですごく悩んでいる子から話を聞いて、私が「生きていても大丈夫だよ」というメッセージを送ることはほぼ不可能だし、もし自分が10代だった時にそう言われても、自分の中で響かないと思っていて。そういう人たちにメッセージを届けるには、どういう手段が取れるのかと考えた時に出来たのがこの作品でした。人からの言葉は直接受け取れなくても、本でなら受け取れる人も多いんじゃないかなと思うので、これを読んだ時に少しでもしんどさや葛藤を抱えた気持ちが軽くなって、明るい気持ちで読み終えてくれる作品であったらいいなと思っています。