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映画「星の子」主演の芦田愛菜さんインタビュー 人を「信じる」って何だろう

文:根津香菜子、写真:岡本英理

自分の意見を受け止めて、考えて

――本作は芥川賞作家・今村夏子さんの人気作ですが、原作のある映像作品に出演される時、芦田さんが心がけていることはありますか?

 今回は原作に忠実な作品だったので、撮影をする前日にそのシーンの原作の部分を読みました。ちひろの気持ちを考えるためにも、前後がどんな話だったのかなというのも思い出して、原作はすごく読みましたね。

――主人公のちひろを演じるにあたって、役作りに生かしたことや、心がけたことを教えてください。

 大森(立嗣)監督からは「あまり役を作り込まないでほしい」と言われていたので、実はこれといった役作りはしていないんです。その時、その時感じたことを演じられたらと思っていたんですけど、いつもより、少しゆっくり話すように心掛けていました。

――「ゆっくり話す」ということが、ちひろのポイントなんですね。

 ちひろって、自分の意見をすごくしっかり持っていて、自分で受け止めて考えることができる女の子だと思うんです。でも、だからと言ってそれをうまく表現できない子でもあるのかなという気がしたので「すごく考えて話す」というところを、ゆっくり話すことで表現できるのかなと思いました。

――両親が周囲の人たちから不審な目で見られることについて、娘としての葛藤もあったかと思うのですが。

 物語の初めの方では、ちひろは周りの人たちから悪意のある言葉をかけられたこともなくて、両親から大切に育てられた、本当に素直で純粋な女の子なんですよね。南先生や周りから両親が変な人だと言われていることを知ったけど、そうなってしまったきっかけは自分にあるので、とまどいや辛いこともあったと思います。

 でも、そんな親のことをちひろがどういう風に思っていたのかなと考えた時に、ちひろは両親から注がれた愛を受け止めたいというか、両親が自分のことを大切に思ってくれていることを知っているから、その気持ちを大切にしたいと思ったんじゃないかと思います。外からの見た目で親を拒否するのではなく、両親が自分を思ってくれている気持ち、心の部分ですね。そういうところを信じたいと思うようになったのかなと思っています。

©2020「星の子」製作委員会

――憧れの南先生から、自分の親を「不審者」「狂っている」と言われたちひろが、泣きながら夜の街を走るシーンが印象的でした。あの時はどんな思いがありましたか?

 私自身、ちひろを演じていてとても辛いシーンでした。今までちひろは、誰かに嫌われるとか、人の悪意とかを感じたことがなかったと思うので、そういう言葉を、しかも自分が好きな人から言われて、きっとすごく衝撃的だっただろうし、心に刺さったと思うんですね。だから私も本当に辛かったのですが、南先生にもう一度教室で辛いことを言われた後に、友達のなべちゃんと新村君が来てくれて、ちひろとしては、今まで一人で抱え込んでいたけど、ここにはちゃんと受け止めて理解してくれる人がいたんだなって思えるシーンで、ほっとして泣けてくるシーンだったなと思います。そうやって分かり合える、理解してくれる友達がいてくれたことは、ちひろにとってはすごく幸せだったかもしれないですね。

心のどこかで家族は繋がっている

――娘のためとはいえ、怪しげな宗教を盲信する両親の元で育ったちひろは、成長と共に「自分の家はおかしい」と思い始め、傷つくこともありますが、一度も親を責めることはありませんでしたね。

 きっとちひろは、心のどこかで「両親がこうなったのは自分のせいだ」という思いや、「自分のせいで姉のまーちゃんの人生が変わっちゃったんじゃないか」っていう後ろめたさもあったんじゃないかと思うんです。だけど自分ではどうにもできなくて、苦しかったんじゃないかと思っていたんですが、お父さんから「まーちゃん、子どもが産まれたんだ」と聞いて、「自分の知らないところで幸せになってくれていたんだな」って少しほっとできたと思うんですよ。

©2020「星の子」製作委員会

 それに、ちひろは両親が自分のことを大切に思ってくれていることも理解していたと思うし、それが本作のラストシーンに繋がっていくのかなと思います。3人で星空を眺めている時に、ちひろは両親の外側だけじゃなく、内側の思い、愛情というのをすごく感じたし、たとえ家族が離れ離れになっていたとしても「どこかでまーちゃんもこの星空を見ているのかもしれない」と、心のどこかで私たちは繋がっているんだと思ってもらえるようなラストであればいいなと思っています。

――芦田さんが本作で一番印象に残っているシーンやセリフを教えてください。

 印象的だったのはやはり最後のシーンですね。「せっかくなら3人で流れ星を見よう」と言って、寄り添う姿がすごく素敵だなと思いますし、お父さんとの会話で、ちひろが「見えないね」「まだ見えないな」っていうやりとりも、ちひろはきっと本当に星が見えないと思って言ったんだろうけど、お父さんはその時何を思って「まだ見えないな」って言ったんだろうか、とか。そういう風に考えたら、私自身も涙が出てくるようなシーンなので、すごく好きです。

 家族一緒のシーンは、そんなに多くはなかったんですけど、永瀬(正敏)さんと原田(知世)さんの演技から、本当にちひろは大事に育てられてきたんだろうなということを私自身もすごく感じました。どんな風に育てられてきたのかを知ることは、ちひろの土台を作る上ですごく大切なのかなと思いました。

©2020「星の子」製作委員会

――本作への出演を経て、芦田さんが「得たもの」は何でしょうか。

 「信じるって何だろう」という事をすごく深く考えました。身近なことだけど、今までそのことについてあまり考えたことがなかったんです。「何があっても揺るがない自分がいる」っていうのが「信じること」なのかなと思っていたのですが、それってすごく難しいじゃないですか。自分の軸を持つのって難しいし、揺れ動くものですよね。不安だからこそ、人は「信じる」と言葉にすることで、自分が理想とする姿だったり、自分が思う姿になりたかったりするのかなと思いました。

 「その人のことを信じようと思います」という言葉は割と使うことがあると思うんですけど、きっとそれって、その人自身が信じているのではなくて、自分が思う「その人」を信じているというか。自分の理想像を信じてしまっているのでは、という気がしています。どこかで期待しているから「信じていたのに」とか、「裏切られた」と思うのだろうけど、それは別に裏切られたわけじゃなくて、今まで信じて、期待していた人の側面的な部分が見えただけなのかなって思うんですよね。それが見えた時に「あ、それもこの人なんだ」って受け止められることが「信じる」ということなのかなと、私自身が考えるきっかけを頂いた作品でした。

 あとは、監督から課題というか、ちひろという役について私にお題を出してくれている気がしました。あまり具体的に「こういう風に演じてほしい」と仰る方ではないのですが、シーン毎に監督とたくさんお話しさせていただいた中で、演技って、すべてプラスしていくことだけじゃなくて、マイナスすることも大切なのかなって思うようになりましたね。全てを伝えることだけが演技じゃなくて、例えば普段のちひろのフラットなシーンだったり、ちょっと感情が爆発するようなシーンだったり、そういうメリハリをつけてほしいということを言われたりもしたので、マイナスの演技をしていくことも重要なのかなということを、この作品で学びました。

本は「ジャケ買い」

――芦田さんと言えば、年間100冊読まれるほど大の読書家として知られていますが、本の情報はどこから得るのですか?

 本屋さんに行って自分が気になった本を手に取ることもありますし、前に読んで面白かった作家さんの違う作品や、新刊を手に取ることもあります。もちろん、話題作や人気の本も読みますよ。

――特に心惹かれるのはどのような作品でしょうか?

 私は結構「ジャケ買い」というか、題名と表紙が気になった作品を手にすることが多いですね。それに共通するのが何なのかは分からないのですが、パッと見て惹かれるという本はあります。

――「本が苦手だな」と思っている方に、読書の魅力を一つ伝えるとしたらどんなところですか?

 誰かが「面白い」って言っている本もたくさんあるじゃないですか、きっとそういう本は面白いのだと思いますが、それを頑張って読もうとするのではなく、まずは自分が面白そうだなって気になる本を手に取って読むというのが一番なんじゃないかなと思います。自分が面白いと思える、心惹かれる一冊があると、その作家さんの違う作品が読んでみたくなったり、それがシリーズものであれば、続きがどんどん読みたくなったり。そういう風に本の世界って広がっていくのかなと思うので、まずはその人にとって一番面白いと思える本に出会えたら、すごく幸せなのかなと思います。

――読書の魅力はどんなところでしょうか。

 本を通して色々な世界に行けることが魅力だと思います。本を開けば、自分が知っている世界とは違う世界が広がっていて、その中で登場人物たちが色々なことを考えて、感じて行動したことを、私が疑似体験できるというところが一番の魅力なのかなと思っています。私にとっては、歯を磨いたりお風呂に入ったりすることと同じくらい、本を読まないと落ち着かないというか(笑)。「本がない生活なんて考えられない!」っていうくらいなので、5分、10分でも時間があれば読み進めますし、歯を磨きながら読んじゃうこともあるので、大好きな本を読んで毎日を過ごしています。