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平成生まれの町あかりさんが「昭和歌謡曲」のディープな世界をガイド SNSでバズりそうな歌手は?

文:篠原諄也 写真:篠塚ようこ

歌謡曲を貪欲に探った中高生時代

――町さんが昭和歌謡曲に関心を持ったのは、サザンオールスターズがきっかけだったそうですね。

 中学生の時にサザンが歌番組で「君こそスターだ」を演奏する姿を見て、凄くいいなと思っちゃったんですよね。中学生女子がなぜか急に大ファンになりました。サザンの曲は全部遡って聴いていました。

 1978年のデビュー曲「勝手にシンドバッド」を聴いていて「もしかすると78年ごろの音楽が好きなのかもしれない」と思ったんです。当時流行っていた曲を検索すると、その年に解散したキャンディーズの情報が出てきました。

 特番やベストアルバムをチェックすると、曲はいいし、3人とも凄く可愛い。そしてヒット曲の「年下の男の子」や「春一番」は可愛い雰囲気ですが、もうちょっと掘り下げると、ライブでは洋楽のカバーをソウルフルに歌っていて、凄くかっこよかったんです。最初にキャンディーズにハマっちゃって、ピンク・レディー、聖子ちゃんとどんどん広がっていきました。

――そこから「歌謡曲・沼」の深みにハマっていったとされていました。

 一番貪欲に探っていたのは高校生の頃でした。「こんな曲あるんだ!」と日々感動していましたね。テレビの「歌謡曲特集」「昭和の名曲」といった特番は全部逃さず録画していました。チャンネルによって(演奏や衣装が)違ったりするんです。「このレアな衣装見たことない!」と思ったりしていました。

  TSUTAYAで当時のアルバムをめちゃくちゃ借りまくっていました。それでもマニアックな音源はないから、ヤフオクなど色んなところで探して買っていましたね。ネットではニコニコ動画やYouTubeで好きなアーティストを検索して、当時の映像を探しました。学校から家に帰ってからずっと見ていました。

――当時の番組を見ている時に「頑張れ!」と声を出して応援することがあると書かれていたのが面白かったです。

 「頑張れ!」と思っちゃいますね。たとえば、松田聖子さんも聖子「ちゃん」と思いますしね。自分の親くらいの世代の方だから、聖子「さん」なんですけど。でも当時の映像を見たら、まだ二十歳くらいの聖子「ちゃん」じゃないですか。リアルに感じちゃうから、何十年も前の映像を見ていても応援したくなります。

 聖子ちゃんはデビュー直後の番組中継で、空港で飛行機から降りてすぐに滑走路で「青い珊瑚礁」を歌うんですよ。かなりの悪条件なのに、のびやかで美しい歌声でした。もしも自分だったら...と思うと本当に考えられないです(笑)。

自分とリンクする何かが見つかる

――平成生まれ以降の昭和を知らない世代に、昭和歌謡曲の魅力をどう説明しますか?

 結局、今も昔も変わらないなと思うことが多いんです。その時代の流行りはあると思うんですけど。進路や人間関係、恋愛に悩む気持ちはどの時代も一緒だと感じます。私も凄く共感しながら聴いていました。

 たとえば「学校で好きな人ができて〜」みたいな曲はいっぱいあります。恋愛をして感じたことは、本当に普遍なんだなと思います。だから全然遠い知らない世界ではなくて、自分とリンクする何かが見つかる。そこが素敵だなと思います。

――町さんは最近の音楽も聞きますか?当時と今を比べると何が違うでしょう?

 最近の音楽も全然好きで聴きますね。当時はいろんな歌があるから一言で言うのは難しいですけど、作り手に「大衆音楽を作ってヒットさせるぞ!」という強い思いがあったと思うんですよ。複雑な歌もありますが、簡単に歌える歌が多いように感じます。たとえば、南沙織さんのヒット曲「17才」は歌いたくなってしまう。本当に老若男女が歌えて、童謡のようでシンプルアンドキャッチーなんです。

――「1978年」の曲に惹かれるそうですね。本書は78年前後の曲を中心に紹介していました。なぜでしょうか?

 サザンのデビューとキャンディーズの解散の年であることから始まってるんですよね。78年は本当にいい曲ばかりなんです。私にとってなんですけど。

 私の勝手な解釈ですけど、78・79年と80年は全然違います。78年はちょっと大人っぽい雰囲気がある。シティっぽく、ディスコっぽい感じがする。当時流行っていた映画「サタデー・ナイト・フィーバー」のような雰囲気ですかね。

 でも80年になった途端に、本当に新しい時代が始まる。聖子ちゃんとトシちゃんがデビューした年です。キラキラ・ピカピカした雰囲気のティーンズの世界になるんですよね。78年はニューエポックの80年の前夜のような雰囲気が、なんとも言えず好きなんです。

――どういう曲に惹かれますか?

 他にはないオリジナリティのあるテーマだと凄くいいなと思います。制作者の「この歌手をヒットさせたい!」という熱い気持ちが感じられる曲でしょうか。

 たとえば、しのづかまゆみさんの「パパはもうれつ」は、パパが娘の外出や恋愛をもうれつに邪魔をするという歌です。恋人の恋愛ソングじゃなくて、パパ大好きソング。今ではちょっとありえないユニークなテーマだと思います。

 ピンク・レディーのヒットした「UFO」や「サウスポー」も、凄く工夫していてキャッチーなテーマですよね。映画やドラマのお話みたいな世界観がある。しかも毎回違うテーマでシングルを作っているのが凄いと思います。私自身、他にはないテーマで曲を作りたいと思っていて、昭和歌謡曲に大きな影響を受けている点です。

――町さんが「こうなりたい」と憧れる歌手はいますか?

 いっぱいいますが、岩崎宏美さんは本当に大好きで、私にとってのアイドルです。歌は「うまい」と一言で言うのが失礼なくらい素晴らしい。めちゃくちゃ憧れましたね。カラオケでよく真似っこして歌っていました。

 特に5枚目のシングル「未来」のレコードは、本当にドキドキしながら買いました。凄くかっこいい歌ですし、ジャケットも凄く可愛い。飾って眺めたりして、大切に持っている1枚ですね。

――「お葬式で流したいくらい大好き」とされていましたね。イントロからとてもかっこよかったです。

 「ジャガジャガジャガ」って、めちゃくちゃかっこいいですよね。作曲は筒美京平先生なんですけど、歌えるイントロを意識されていたんだと思います。「たらららららー」みたいな。

 作詞は阿久悠先生です。大好きな彼に夢中になって、盲目的になってしまう。「あなたも私もこの先の未来は同じ」と歌っている。今も絶対共感する人はいると思います。岩崎宏美さんの真っ直ぐで力強く若々しい歌声が、少女の超一途な思いにぴったりなんです。

 本当に何度もリピートして聴きたくなる曲です。最後はサビの繰り返しのフェイドアウトで終わっていくので、iPodでずっとグルグル聴いてました。

「先駆的」と感じる作詞家とは?

――昭和歌謡曲の世界で、SNSでバズりそうな歌手はいますか?

 この本では、歌謡曲好きは誰もが知る伝説的なバンド、スペクトラムを紹介しました。前身はキャンディーズのバックバンド「MMP」でした。

 この人たちは本当に天才なんですけど、衣装がとにかく凄いんですよ。何と形容したらいいのか分からない、ギラギラの衣装なんです。バンドの形態は当時大人気だったアース・ウィンド・アンド・ファイアー(米国のファンクバンド)に近いかもしれません。

 演奏はめちゃくちゃかっこいいです。みんな凄腕で踊りながら演奏しています。当時、吹奏楽部でスペクトラムの真似をして、トランペットを回すのが流行ったらしいです。これはSNSでバズると思いますね。

――本書ではいろいろな歌詞が紹介されていますが、特に好きな作詞家はいますか?

 阿木燿子先生が好きです。先入観があるのかもしれないですけど、女性目線なんですよね。突っ張っている女の人が書いたんだなと思います。特に70年代後半の曲だと凄くかっこいいです。

 たとえば、ジュディ・オングの「麗華の夢」は「これからは女性の時代よ」という雰囲気が出ています。パトロンのような年上の彼氏に「私は私の夢を貫きたいからもう別れましょ」と言う。慌てて騒いでいる彼を見ながら「騒いでらっしゃるわねえ、オッホッホ。私は私で決めるのよ」みたいな感じです(笑)。女性が自己決定しているのがいいなと思います。あと百恵ちゃんの作詞も担当していました。「プレイバック Part 2」は女性が男性に対して啖呵を切る歌ですし。

 当時こういう歌を出していることが凄く先駆的です。聴いていて「かっこいい!」「痺れる!」と思う。こういう歌詞は阿久悠先生は書かないので、女性の作詞家さんならではだと思います。

 今も音楽関係者は男性ばかりで女性が本当に少ない。それが嫌になることがありますが、当時はもっと珍しかったと思います。そういう中で女性目線の歌詞を書かれていて、とても励まされますね。

――今後も昭和歌謡曲を探っていきますか?

 知らない曲がまだまだいっぱいあるんだなと日々思います。ふとしたきっかけでネットで知ったりする。大ヒットした歌でも知らないこともあります。この本で紹介した以外にも、好きな歌は死ぬほどあるんですけど、さらにこれからも増えていくと思います。そこは本当に際限がないですね。