1. HOME
  2. インタビュー
  3. 「恋する少年十字軍」早助よう子さんインタビュー 定型「裏切る」気概の7編 

「恋する少年十字軍」早助よう子さんインタビュー 定型「裏切る」気概の7編 

 予測できない展開、とぼけたユーモア、あふれ出す妄想――。そんな作風の短編集を私家版で出し、知る人ぞ知る存在となっていた作家の早助(はやすけ)よう子さんが、商業出版として初の単行本『恋する少年十字軍』(河出書房新社)を出した。初めて雑誌に登場してから、9年余りが経っている。

 「私は文学賞を取って出てきたわけでもないし、無名ということにかけては誰にも引けを取らないので」

 デビューからの経緯を聞くと、そう謙遜した。1982年生まれ。大学の哲学科を卒業し、大学図書館で働いていた2008年、翻訳家の柴田元幸さんが責任編集を務める文芸誌「モンキービジネス」に短編小説の原稿募集を見つけ、投稿。11年に掲載され、作家デビューした。

 ところが同じ年、雑誌が休刊に。しばらくは他の文芸誌で小説を発表していたが、本にまとまることはなかった。昨年6月、私家版の短編集『ジョン』を刊行。各地の書店で静かな反響を呼び、増刷もした。

 新刊は中編、短編、掌編と、長さのちがう7編を収録。表題作で主人公の女性は考える。〈自分の妄想と親しくつきあう。それは、いつかは裏切られると分かっている不実な恋人に我が身を捧げるのと同じことなのだろうか〉。そして踏み出すのだ。〈裏切られる前に、裏切ろう〉と。

 それは「一般的な社会道徳にひと味ちがった姿勢で向き合う」執筆姿勢にも通じるらしい。「定型があるなら、それを裏切っていこうというくらいの気概はあるんじゃないかと。ちょっと外れた生き方も肯定したいという気持ちは、あると思います」(山崎聡)=朝日新聞2020年10月14日掲載