泥臭くレトロなタッチで描く『ブラック・ジャック創作秘話』(原作・宮﨑克)など、エモいノンフィクションマンガで知られる吉本浩二。そこそこ売れっ子であるはずの彼のこづかいは月わずか2万1000円だという。以前は3万円だったのだが、2人目の子どもができて「3割カット」されたらしい。第一線で活躍する40代半ばのマンガ家が、193円のお菓子を買うべきか全身を震わせて悩んでいる描写はあまりにも強烈だった。小学生か!
「モーニング」(講談社)で月イチ連載中の『定額制夫のこづかい万歳 月額2万千円の金欠ライフ』は、最初に作者自身のこづかい事情が描かれ、第3話以降は同じく2万円前後の「低額こづかい」でやりくりしている実在の中年男性たちが次々と登場する異色のノンフィクションだ。恐ろしいことに自宅で昼食を取る作者以外は、ほぼ全員がこの金額に昼食代も含まれている。83年製のホンダGB250クラブマンを愛する佐野さん(48)など、月2万5000円のうち1万9000円をバイク関係に使っていながら、残った6000円のうち2000円を貯金しているというからすごい。それぞれ苦労しているが、あまり悲壮感はなく、わずかなこづかいで明るく前向きに生活を楽しむ姿が描かれる。彼らを見ていると、自分がとんでもない浪費家に思えてくる。本気で節約や貯金を考えている人には大いに参考になるだろう。
昭和末期の80年代後半には、同じ「モーニング」で『大東京ビンボー生活マニュアル』(前川つかさ)が連載されていた。主人公は風呂なしアパート平和荘で暮らす青年コースケ。大学卒業後も定職につかず、ときどきアルバイトをするだけのフリーターだ。280円で1日2回の食事をすませたり、あり余るヒマに任せて1週間で60本のビデオを観たり。金がないつらさや将来の不安などはまったく感じていない。ルックスもさえず、徹底的にビンボーなのに、どういうわけか美人のカノジョ(ひろ子)までいて、金も物もないのに豊かで満ち足りた生活を送っていたのだった。
両作品は一見よく似ているが、バブル期に連載された「大東京」は豊かな時代の“あえてのビンボー”であり、浮かれた世間の風潮に背を向けた一種のファッションだったことが大きく違う。当時は就職も簡単だったのでフリーターにも不安はなく、「いざとなればサラリーマンになればいい」というお気楽な空気があった。
一方、現代の「定額制夫」は好きで月2万円のこづかいに甘んじているわけではなく、家族を養うためにそれ以上もらえないのだ。選択の余地はない。今後もこづかい(収入)が上がる見込みはないが、その否応ない条件の中でどう人生を楽しむかに知恵を絞っている。登場人物たちが例外なく明るいにもかかわらず、読んでいると暗い気持ちにもなってくる。バブル崩壊から30年。まさか日本がこれほど貧しい国になってしまうとは――。
ところで、甘党の吉本浩二はお菓子が最大の楽しみらしいが、毎月こづかいの半額(1万円)もお菓子に注ぎ込むのはいかがなものかと思うぞ。