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「荷を引く獣たち」書評 尊厳は保護や介助で失われない

評者: 温又柔 / 朝⽇新聞掲載:2020年10月24日
荷を引く獣たち 動物の解放と障害者の解放 著者:スナウラ・テイラー 出版社:洛北出版 ジャンル:社会学

ISBN: 9784903127309
発売⽇: 2020/09/10
サイズ: 19cm/443p

【アメリカン・ブック・アワード(2018年度)】画家、作家、障害者運動と動物の権利運動の担い手である著者が、個人的な体験、さまざまな人びとへのインタビュー、歴史記述、社会…

荷を引く獣たち 動物の解放と障害者の解放 [著]スナウラ・テイラー

 著者のスナウラ・テイラーは、障害者運動と動物の権利運動の担い手であると同時に、作家かつ画家だ。実の姉であるアストラ・テイラーが監督したドキュメンタリー映画では哲学者ジュディス・バトラーとも対話している。
 健常者を中心とする制度と人間を中心とする倫理はつながっていて、そのために「動物と障害の抑圧がもつれあっている」のなら、その解放への道のりも交差しているはずだという信念のもと、歴史記述、社会・人文学や動物行動学などをはじめとする科学的理論を駆使し、障害をもつ己の個人的体験も織り込みながらテイラーは探究する。
 「どんな身体をもつことが正常であり、どんなものに価値があって、どんなものが『本来的に否定的な』ものなのかをいかに決めるのかを指図する」のは誰なのか?
 テイラーは、人間や健常者から「保護されるのを待つ『声なき』存在として」動物や障害者を「子ども扱いするイメージ」と丁寧にたたかっている。
 私たちはみな「この惑星の上でみずからの生をまっとうする権利をもつ」のであって、保護や介助の対象だからといって「声なき」存在ではない。つまり「依存は尊厳の喪失を本来的にともなうわけではない」のに、「保護者」の応答次第では、尊厳が奪われかねないとテイラーは言う。
 彼女の言葉をたどっていると、自分がいかに健常者中心、人間中心というこの社会に安住していたのかと突きつけられる。そして、この社会を構築するうえで、もっと別の可能性を具体的に探究する意欲を喚起させられる。動物を含むありとあらゆる存在にとって、より健やかな状況を希求するための、切実かつ、新しい希望を刺激するテイラーの呼びかけに、どうにか応えたくなる。
 本書を読みすすめるうえで丹念な補助線を引いてくれる訳者あとがきも頼もしい。
    ◇
Sunaura Taylor 1982年、米国生まれ。画家、作家。本書は2018年度のアメリカン・ブック・アワード受賞。

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