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「ファン・ゴッホの手紙」19年ぶり新訳 へりくつや恨み節…プライバシーの塊

 西洋美術史が専門の圀府寺司(こうでらつかさ)・大阪大学教授は、現存するだけで800通あまりもの手紙を書いたことで知られるゴッホの研究の第一人者だ。日本では19年ぶりの新訳となる書簡選集『ファン・ゴッホの手紙1・2』(新潮社)を出した。

 今も流通している最初の書簡全集は、ゴッホの義妹の手で都合の悪い記述が削除されていた。オランダのファン・ゴッホ美術館は2009年、専任スタッフ3人がかりで15年かけ、手紙の日付から言及された美術作品、引用元まで徹底的に洗い直した改訂版を出版した。「ある種の世界遺産。ちゃんと伝えておきたい」と実は嫌いな翻訳作業に腰を上げ、特に重要な265通を6年がかりで訳した。

 小難しい聖書の引用、へりくつこねて金の無心、女に振られて恨み節。そんなプライバシーの塊が「歴史の女神の手違い」で、燃やされず残った幸運に思いをはせる。

 手紙の大半は、画家の生涯を献身的に支えた弟テオ宛て。訳者をも苦しめた面倒くさい手紙の数々を「一回、テオになったつもりで読んでみて」。(田中ゑれ奈)=朝日新聞2020年11月11日掲載