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衝撃のサスペンス漫画「adabana-徒花-」NONさんインタビュー 殺人事件の被害者も容疑者も、秘密を抱えた女子高生

文:若林理央、写真:有村蓮

推理しながら読んでほしい

――『デリバリーシンデレラ』『ハレ婚。』など青年誌で恋愛漫画を描いてきたNONさんですが、『adabana-徒花-』は初のサスペンスだったので驚きました。

 「人間を描いていきたい」という私自身の気持ちは変わっていないんです。とはいえ今回、サスペンスという新しいジャンルに挑戦したので読者さんに受け入れてもらえるか不安でした。今は「本作で初めてNON作品を読んだ。面白かったよ」と言ってくださる方や周りに薦めてくださる方もいると聞いて安心しています。

――本作のテーマを教えてください。

 「何が正義で何が悪か」です。描かれているのが罰を受けるべき悪なのかどうか、結末まで読み終えた後に読者さんそれぞれに考えてもらえるように導きたいと思っています。「学校と家庭しか世界がない」という10代特有の閉塞感や高校生の制服がサスペンスにマッチすると思い、主人公は女子高生のミヅキとマコにしました。

単行本の装丁は、NONさんのパートナーの手塚だいさんが担当している

――マコが殺された直後から物語が始まり、上巻は自首したミヅキの供述が中心です。途中から「ミヅキ、真実と嘘を交えつつ話しているのでは」と疑問に思ってページをめくりながら推理してしまいました。

 ありがとうございます、それが狙いです。「連載漫画は完結してから全部読もう」と決めている読者さんも多いかも知れませんが、本作はリアルタイムで推理しながら読んで欲しくて。謎を完全に隠してもいけないし、出し過ぎてもいけない。最後はすべての合点がいくように繊細な計算をしながら進めています。

ミヅキの表情すべてに意味がある

――ミヅキとマコの性格はどうやって決めたのですか?

 以前、「陰と陽、正反対の女の子たちの秘密の計画」という作品を構想したことがあり、そのイメージが残っていたんです。二人とも苦しみを抱えているのですが、マコは明るく「なんてことないよ」と振る舞う「陽」、ミヅキは闇がうずまきうっ憤がたまっていって、ある日いきなり爆発してしまう「陰」です。

©株式会社ねこの手/集英社

――彼女たちの姿を作画するのは大変でしたか?

 マコはすんなりとできたのですがミヅキは難しかったですね。何度も彼女の表情を描いているうちに「これだ!」というものがやっと生まれました。ぼーっとしているけど陰りのある表情。それがミヅキのベースです。作画ではミヅキの表情にいちばんこだわりました。

――あまり笑わないミヅキが何度か笑顔になる場面がありますね。その笑顔に異なる意味があるように感じました。

 そのとおりです。結末で意味がすべてわかるように描き分けています。向き合う相手によってもミヅキの表情は百面相のように変わる。ミヅキは台詞が少ないので表情の描き分けを大切にしています。

――本作以外でもNONさんの漫画に登場する女性たちはみんな個性的な表情をしますね。

 デビュー前から女の子を描くのが好きで、学校の写生大会で友だちの似顔絵を描いたり、アイドルとして事務所に所属していたときは仕事で同業の女性たちのイラストを描いたりしていましたね。

夫と作り上げた初のサスペンス

――NONさんのこれまでの連載・読み切り作品は集英社の青年誌に掲載されていますね。

 最初は少年誌志望でした。ずっと読んでいたのが週刊少年ジャンプで、10代の頃はよくジャンプ連載作品の模写をしていましたね。ただ高校卒業後に通った漫画の専門学校で私の作風は青年誌向きだと言われて。

 ヤングジャンプ編集部に漫画を持ち込んで担当編集者がついたときに、デビュー作の『デリバリーシンデレラ』を描きました。女性の裸体を描いたのはそのときが初めてですね。

――丁寧に描写されるエロスもNONさんの漫画の特徴ですね。あらためて聞きたいのですが、本作をサスペンスにしたのはどうしてですか?

 『adabana-徒花-』の原案は夫なので彼が骨組みを作り、私がそれに情熱をぶつける形で作り上げています。夫も私ももともとサスペンス映画が大好きなんです。ただ私は漫画を描きながら登場人物に乗り移るタイプの漫画家です。サスペンスは客観的に物語を見つめる必要があるので、憑依型の私には描きにくいのではと思っていました。

 でも夫から「心理描写をリアルに描けるのがNONの武器。人間関係はサスペンスの肝だしエロスが絡むとより面白くなるからNONのタッチに合ってるよ」と言われて、二人で相談しながら短編で描いてみることにしました。

――パートナーの手塚だいさんと構想を練り始めたのはいつ頃からですか?

 前作の『ハレ婚。』が終わった直後から毎日議論していました。漠然とした私の描きたいものを「これじゃない?」と夫が何度も提案して二人で明確にしていきました。今は私も登場人物に憑依しながらサスペンスを描くことにはまってきて、夫には感謝しています。

歪みや悪を隠さず描く

――上巻では予想外の展開が続きますが、結末は最初から決まっているのですか?

 はい。ただ途中の展開はネームにすると「思っていたのと違うな」と感じて直すことがよくありますね。読者さんにとっても自分にとっても面白い漫画にしたいので、そういうときはネームを直します。

――サスペンスを描いていて楽しいと思うことは何ですか?

 悪い人や汚いものをぞんぶんに描けることです。私は悪い人にも何か事情があると考えていて、今までの作品では「NONさんは完全な悪役を登場させないんですね」と言われることもありました。だけど本作では見るからに歪んでいる人もいれば、見方を変えると歪んでいる人もいます。描きながら「歪みにもいろいろな種類があるんだな」と感じました。

 私は登場人物の加害者・被害者両方に憑依しながら描くので、醜いものを思い切り描きたいという欲求が満たされていますね。

エロスを痛々しさに変えた

――エロスが辛いものとして描かれているのも、これまでのNONさんの作品にはない特徴だと感じました。

 今まで描いた恋愛漫画ではエロスは甘くて心地よいものでした。ときには読者さんへのサービスであり、ときには登場人物へのご褒美として描きました。しかし本作ではそれをひっくり返し、性描写を、登場人物を傷つける犯罪行為として痛々しく表現しました。

――上巻ではマコのストーカーとしてイケメン大学生のユウキが登場します。グランドジャンプで中巻掲載予定の内容を読んで、彼の新たな一面を知り「えっ」と声をあげてしまいました。

 ユウキはどんどん気味が悪くなりますよ。「マコを殺したのはミヅキじゃなくてユウキかも?」と思っている読者さんもいるそうです。真実は結末を迎えるまで明かせませんが「どうして彼は気味が悪いのか」をぜひ考えてみてください。中巻のユウキは描いていてとても楽しいです。

©株式会社ねこの手/集英社

――今、NONさんは何を描ききりたいと思っていますか?

 非日常的な事件の結果、人の感情や感覚はどこに向かうのかを描き切りたいですね。物語が終わった後、作者である自分もどのような気持ちになるのかわからなくて楽しみです。

 夫は「世の中には酷い事件がたくさんある。読者さんには本作を読むことで実際の事件を見たときと同じような気持ちになってほしい」と言っています。1月19日には中巻が発売されるので楽しみに待っていてください。

――今は本作に全力投球されていると思いますが、今後描いてみたいことはありますか?

 今までと同じような内容の漫画はもう描きませんが人間の感情を表現し続けたいです。今は人間じゃないものの目から人間を描くことに興味があるんです。いろいろな挑戦をしていけたらと思っています。