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心あったか、お話の世界へ クリスマスや冬休みにオススメ「子どもの本棚」

 「まどのむこうのくだものなあに?」(福音館書店) 黒いページの真ん中に四角い窓。宝石みたいに輝いて見えるのは、果物の一部だ。めくると、その全体像がページいっぱいに。まためくると、半分に割った果汁滴る断面図が現れる。へたの筋、種の粒々、産毛まで再現した写実画の新鮮な驚き。神秘的な姿形は、自然からの贈り物だ。目で見て感じる科学絵本でもある。繊細な絵と大胆なデザインで、めくる喜びを味わって=3歳から(荒井真紀作、1100円)

 「ちいさな曲芸師バーナビー」(現代企画室) ひとりぼっちの旅芸人バーナビー。知っているのは、死んだ父さんから教わった曲芸だけ。凍えながら踊っていた雪の日、修道院に引き取られる。でも与えられるパンを食べるだけの毎日、祈り方も知らない自分がマリア様にできることって? イブの晩、ひっそりと奇跡が起きる。中世の伝説を元に生まれた美しい絵本。今の自分を力づけてくれる=小学校高学年から(B・クーニー再話・絵、末盛千枝子訳、2千円)【絵本評論家・作家 広松由希子さん】

 「オール・アメリカン・ボーイズ」(偕成社) 黒人の高校生ラシャドは万引きを疑われ、白人の警察官に暴行される。その現場を見ていたのは同じ高校に通う白人のクインだった。2人の少年の目線でつづられる、事件をきっかけにデモが起きるまでの8日間。立場の違う2人の葛藤が生々しく、決してひとごとではないと強く思わされる。まずは知ることが大切だ。目を背けないで見てほしい=中学生から(ジェイソン・レノルズ、ブレンダン・カイリー著、中野怜奈訳、1500円)

 「ゆきのねこ」(童話館出版) 雪深い森の中、たった一人でさびしく暮らすエルシーは足元を温めてくれる大きなねこが欲しいと願う。神様から雪でできたねこが贈られるが、「家の中に入れてはいけない」という約束をやぶってしまい、ねこは溶けてしまう。姿は変わってしまってもエルシーに寄り添い続けるねこの存在に、切なくも心が温かくなる=小学校中学年から(ダイヤル・コー・カルサ文と絵、あきのしょういちろう訳、1300円)【丸善丸の内本店 児童書担当 兼森理恵さん】

 「しあわせなときの地図」(ほるぷ出版) 戦争のせいで生まれ育った町を離れ、知らない国に逃げて行かなくてはならなくなった少女ソエは、地図を開き、楽しい時をくれた場所を一つ一つ思い起こしては、そこにしるしをつけていく。幸せな思い出が、生きていく力をあたえてくれることを伝えるスペインの絵本。コロナ禍にある今だからこそ、さまざまな状況の子どもたちに思いをはせてみたい=小学校低学年から(フラン・ヌニョ文、ズザンナ・セレイ絵、宇野和美訳、1400円)

 「パディントンのクリスマス」(福音館書店) 主人公は、人間のブラウン一家と暮らすクマのパディントン。好奇心旺盛で、いろいろ思いつくあまり、悪気はないのに行く先々で周りを困らせたり、心配させたり、大騒動を引き起こしたりする。そんな小さなクマがついついいとおしくなる、ゆかいな物語集。7編のうち2編がクリスマスにまつわるエピソード=小学校中学年から(マイケル・ボンド作、ペギー・フォートナム画、松岡享子訳、1300円)【翻訳家 さくまゆみこさん】

 「雪山のエンジェル」(評論社) ケニアの少女マケナは山岳ガイドの父と山へ登るのが大好きだった。ところが両親が突然感染症で亡くなり、引き取られた家になじめなかったマケナはスラム街にたどり着く。そこでアルビノの少女スノウと出会い、希望を持って生きていこうとするが……。貧しいくらしの中で、子どもたちの心を物語がいやしてくれる場面が印象に残る作品だ=小学校高学年から(ローレン・セントジョン作、さくまゆみこ訳、1400円)

 「お話を運んだ馬」(岩波書店) 復刊カバー付きのこの本には、とんまな人ばかりが住んでいる町ヘルムを舞台にした滑稽なお話をはじめ、8編が収められている。早く本が読めるようになりたかったナフタリは、本が読めるようになると手当たり次第本を読み、とうとう本屋になるという夢を実現する。子どもたちにお話を届けたナフタリの生き方に、私も自分の人生を重ねながら読んだ=小学校高学年から(I.B.シンガー作、工藤幸雄訳、680円)【ちいさいおうち書店店長 越高一夫さん】=朝日新聞2020年11月29日掲載