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川浦良枝さんの絵本「しばわんこの和のこころ」 わんことにゃんこが教える、日本のお作法

文:日下淳子、写真:家老芳美

柴犬が手拭いかぶって庭掃除

――かわいい柴犬と三毛猫のコンビが、和の風習について楽しく教えてくれる絵本『しばわんこの和のこころ』(白泉社)。床の間って何? 畳のヘリはどうして踏んではいけないの? お正月はどんな飾りつけをする? といった、知っていそうで知らない知識や知恵をわかりやすく教えてくれる読み物絵本だ。新聞の集金にきたお兄さんを、なぜか客間に通しておもてなししてしまう柴犬・しばわんこと、その客間で座布団を毛だらけにする三毛猫・みけにゃんこ。2匹を取り囲む人間模様も見どころで、絵本雑誌「MOE」の連載をきっかけに大人気となったシリーズだ。

「しばわんこの和のこころ」(白泉社)より

 「しばわんこ」のシリーズは、もとは絵本ではなくて、「MOE」の描きおろしのお話として始まったものでした。単発の記事のつもりだったのですが、当時白泉社の社長だった小長井信昌さんが、これはぜひ連載にしようと言ってくださって、すぐ2作目を作ることになったんです。びっくりしましたね。

 以前、柴犬が毎月作法を教えるカレンダーを作ろうと考えていたことがあって、そんな話を「MOE」の編集者さんとお話ししていたら、雑誌に掲載しませんか?と言っていただけたんです。絵本は描いたことがなかったですし、自分で文章を書くのもはじめてでした。いろいろ考えた結果、絵本と漫画がミックスした実用書のような形になりました。「MOE」に掲載するので大人向けに描いていたつもりですが、子どもからの感想も多くて嬉しかったです。

 和のおもてなし紹介のページでは、庭をほうきで掃いたり、玄関前に打ち水をする様子を描いたのですが、しばわんこが姉さん被りをしている様子に、すごく反響がありました。手拭いを被ってかいがいしく庭を掃く柴犬というのは、衝撃だったようです(笑)。

 しばわんこは、家を守るお母さんのようにも見えますし、みけにゃんこを世話するお兄ちゃんのようにも見えます。読んだ方が自分の環境を投影して、それぞれ解釈していただいているようで、読者の方が「うちの兄妹を見ているようです」と言ってくれたこともあります。意外と男の方も読んでくれていて、昭和30~40年代生まれの方は、日本家屋で暮らす2匹を見て、「小さい頃の記憶が思い出されました」という方もいらっしゃいました。

――しばわんこやみけにゃんこの他にも、絵本の中にはご近所のおばあちゃんやアルバイト少年、シングルファーザーのおそば屋さんなどが登場して、いろいろな人間模様が温かく描かれている。

 父・母・子に祖父母が同居……といった「正しい家族のあり方」のような家族構成を、あえて描きたくなかったんです。和の作法ってそれでなくても敷居が高いので、正しさを前面に出すと読む人も臆してしまうのでないかという考えがありました。昔は家族でなくても家に人の出入りがあって、ちょっとした温かさを持って帰るということがよくありました。犬や猫だと家族の役割があいまいなところがあるので、どんな人でも自分の話として読むことができると思ったんです。一緒に暮らしている家族といつも関係がいいとは限らないですし、いろいろな事情でさびしい思いをしている子もいます。いろんな立場や環境にいる方々が、入りやすい世界を絵本の中で描きたいと思っていました。

「しばわんこの和のこころ」(白泉社)より

五感で四季を受け止めて

――絵本の中では、日本ならではの風習やおもてなしが丁寧に描かれている。お正月の準備や、お花見、七夕、夏の花火にお月見……と、それぞれの季節での和の魅力を、実際の生活を通じて解説してくれる。川浦さんが伝えたかった和のこころとはどういうものだったのだろうか。

 絵本の中で一番意識していたのは、季節の移り変わりのときに現れる、日本独特の「切なさ」や「愁い」のようなものを伝えることです。たとえば、キンモクセイの香りに触れることで季節を感じたり、子どもの頃が思い出されたりすることってあるでしょう? 日本では、嗅覚や皮膚感覚など、五感を大切に暮らしていたというところを、絵でも表したいと思いました。

 たとえば夏なら、くちなしの香り、セミの鳴き声、たらいの触感、そういう夏独特の雰囲気を届けたかったんです。お茶碗だったら、漆っぽい触り心地やお茶碗を持ったときの質感、そういうものからくる懐かしさを伝えたい。人間が生きているから五感があるということですから、その感覚から感じられることをものすごく大切にしています。

 とはいえ私自身、和の専門家なわけではありません。茶道を習っていますが、それも友人にお茶の教室に誘われたことがきっかけで、抹茶の作法もなかなか覚えられない、できの悪い生徒だったんです。でも茶道のおけいこをしていると、とても心が落ち着きます。季節が変われば室礼(しつらい)も変わり、花も飾りかごに活けて涼しさを演出する。着物も季節に合わせて衣替えをする。茶道は、目で見て季節を感じるおもてなしなんだなと思っています。ですので、読者の方がこの本を見て、茶道をやってみたい、着物を着てみたいと思ってくださるのは嬉しいですね。ご自身で新しい世界を開いていっていただけたら嬉しいです。

自宅の茶室でお茶を点てておもてなしをする川浦さん

 日本古来の考え方について知ったとき、自分の中でモヤモヤしていたものが、腑に落ちることもあります。お正月のページを描いたときは、年老いていく両親のケアで、心配の絶えない時期でした。そんなとき、「年を取るということはおめでたい」と考える日本の習慣があることに行き当たりました。

 いまは年を取るというと、何かを失っていく意識がありますが、昔は大みそかの夜に年神が現れて、新しい年を取らせ、子孫を見守ると考えられてきました。辛いこともあるけれど、そういうものを含めて「恵み」を受け取るのが、年を取るということなんだと知って、救われた気持ちになりました。ここは、どうしても描きたかったところですね。

「しばわんこの和のこころ」(白泉社)より

――最近は和室のない家も増え、和のしきたりや風習を目にすることが減っているが、「しばわんこ」のシリーズは、「和のこころ」以外にも、おけいこやお道具箱、お庭作り……と続編が好評で、年齢を問わず和への関心の高まりが感じられる。はじめは大人を対象に描かれていた「しばわんこ」絵本も、子ども向けにふりがなを多くし、内容をしぼった作品も作られている。

 『しばわんこの和のこころ』は親子でも読めるのですが、ちょっと難しい言葉を使っているところもあります。でも、あえて調べてみたり、親が自分の言葉に代えてお話しいただくのもいいな、と思っています。ただ、子どもでも読み進められるようなものもご要望があって、双子と一緒にお掃除や和菓子に挑戦する『しばわんこと楽しく学ぼう 和のせいかつ』や『しばわんこの和の行事えほん』も作りました。内容はできるだけわかりやすく、ふりがなをふったり、文字数を少し減らすようにしています。

 2021年の4月末には、12カ月ごとの実践的なおもてなしを描いた『しばわんこの和のおもてなし』も発売します。3月の桃の節句のお膳や茶せん雛、9月の重陽の節句は菊のレシピなど、実際におもてなししたくなるような内容を描いていますので、ぜひ親子で楽しんでみてください。