子どもへの性教育は誰がどこですべきか。答えは「学校と家庭」となるだろうが、残念ながら学校での性教育は十分ではない。そこで「せめて家庭でこれだけは教えよう」と書かれたコミックエッセイが本書である。
登場するのは、先生役とほかは若い保護者たち。本書の最大の特徴は、きちんと教えてもらわずにおとなになっている保護者たちが、まず性教育の必要性やからだの仕組みの基本について学ぶ、というスタイルになってることだ。「ふざけておしりに触るくらいは?」「本人がいやと言うまでは異性の子どもと入浴しても?」と尋ねる保護者に、先生は「自分のからだは自分のもの」との基本を繰り返し、親であっても「線引き」をする必要があるとやさしく説く。
子どもを早い段階から個人として尊重できれば、あとはからだや性に関する正確な知識をわかりやすく伝えればよい。本書には、月経や精通など家庭では避けられがちな話題の基礎知識や伝え方についての話もいっぱい。自らも「そうだったのか」と学びながら、性教育をむずかしいもの、特殊なものと思う必要はないんだ、と気づかされ、励まされる保護者も多いだろう。
それでも、わが子からいきなり性の話をフラれれば、動揺する人もいる。そのときのアドバイスは「動揺したとしてもスウッとひと呼吸して、堂々と言ってあげよう」。これは子育ての別の場面でも使えそうだ。あと大切なのは、子どもに「からだに触れられるなど、嫌なことは嫌と言ってよいんだよ」と教えること。これも覚えておきたい。
それにしても、若い保護者が全員、本書を読むわけではないのだから、もう少し学校でも性教育が行われてほしい。ネットでこれだけ性の情報もあふれている中、「これは作り物。正しい知識はこう」と家庭だけで教えるのは限界がある。本書には「親はどんなときも味方」とあるが、「親以外のおとなも味方だよ」と伝えるためにも、学校や社会での性教育は必要と思う。=朝日新聞2020年11月21日掲載
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KADOKAWA・1430円=3月刊。13刷9万7千部。フクチ氏はマンガイラストレーター。村瀬氏は性教育に長年携わった元高校教諭(保健体育)。3~10歳が大切だという。