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柳美里さん受賞・全米図書賞の選考通じて見えたもの 人種間の平等へ、「私たちには責任がある」 

『JR上野駅公園口』が全米図書賞の翻訳文学部門を受賞し喜ぶ柳美里さん(右)と翻訳者のモーガン・ジャイルズさん=中継動画から

 先月発表された全米図書賞では、柳美里さんの『JR上野駅公園口』が翻訳文学部門を受賞し、日本でも注目された。米国で最も権威ある文学賞の一つとされる同賞は今回、米国で吹き上がる反人種差別へのうねりと、社会の分断へのメッセージを打ち出した選考のように見えた。

 オンラインで行われた受賞発表では、受賞作が発表される前に、1950年に創設された同賞の歴史を人種の観点から振り返る映像が流れた。創設から30年間で受賞した非白人の受賞者は3人、99年まででも13人しかいなかった。近年のアフリカ系アメリカ人作家らによる人種差別撲滅などを訴えた受賞スピーチなどが流れ、「何世代も前から現在に至るまでの、アフリカ系アメリカ人の苦しみや闘争が、私たち全員を自由にしてきた」として、「ブラック・ライブズ・マターを信じる」と宣言した。

 受賞作にも人種差別問題への目配りが現れた。10月に最終候補作が公表された際、ワシントン・ポストは「人種問題や平等を求める闘争」を扱ったものが際だったと評した。実際に、小説部門ではアジア系アメリカ人へのハリウッドのステレオタイプを風刺した作品、ノンフィクション部門では黒人解放運動の活動家、マルコムXの伝記が受賞した。

 一方で、大統領選で浮き彫りになったように、人種間をはじめ、社会の分断はますます深まっている。小説部門の発表の際、選考委員の一人は「世界がばらばらになるかに思われる時に書くことは難しい。だが、作家としてこの政治的状況に応える責任がある。私たちは証言する責任がある」と話した。(興野優平)=朝日新聞2020年12月2日掲載

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