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冨原眞弓さん「ミンネのかけら ムーミン谷へとつづく道」インタビュー 自分にうそつかず考える

冨原眞弓さん=岡田晃奈撮影

 フランスの哲学者、シモーヌ・ヴェイユの研究をリードし、評論や翻訳を多数手がけてきた。一方でトーヴェ・ヤンソンの大人向け小説など「ムーミン」にとどまらない多彩な作家活動の紹介でも知られる。

 なぜその2人なのか。どちらもおざなりにならないだろうか。たえず自問しながら、両者の作品世界の探究を諦めきれなかった。

 本書は自身のそんな彷徨(ほうこう)の跡をたどった初めてのエッセー集である。「ミンネ」はスウェーデン語で記憶の意味。1970年代半ば、東京の学生寮でヴェイユの『神を待ちのぞむ』に衝撃を受けたこと。留学先のパリで昼も夜も机に向かった幸せな時間のこと。80年代末、旅先で初めてムーミンを読み、フィンランド人のヤンソンがスウェーデン語で書く作家と知り、辞書と首っ引きでかの地の言葉を学び始めたこと。作家と会って話をする幸運を得たが、なかなかのくせ者だったこと……。

 二つの思索の世界を往還しつつ、違いと共通点を見つめる。同じと思えるのは、精神の自由を束縛するものと闘う「レジスタンスの人」。抵抗組織に参加したヴェイユも実名で風刺画を描いたヤンソンも、ナチスやスターリンと向き合った。

 それは、あらゆる集団との関係でもある。「偉そうなもの、一くくりにして考えを押しつけてくるものが嫌い。だから2人とも主流から外れたし、境界に生きたと思います」

 全身で彼女たちの言葉を受け止めてきた立場から、若い世代に向けて「誠実さ」を強調する。自分にうそをつかず、格好をつけず、思考し表現することが大切だ、と。

 ヴェイユとヤンソンの本に導かれ出会った、少し風変わりな人たちとの語らいがいい。「眼(め)のまえの人間をまずは肯定する勇気」に満ちた交流が、本書の魅力の一つでもある。(文・藤生京子 写真・岡田晃奈)=朝日新聞2020年12月5日掲載